第十一話「城の図書室」
ある日、カイゼル様から初めて「来い」と言われた場所があった。
城の最上棟の奥——図書室だ。
扉を開けた瞬間、私は思わず声を上げそうになった。
天井まで届く本棚が、ぐるりと部屋を囲んでいる。
埃を被ったものが多いが、その数は優に万を超えるだろう。
中央には重厚な木のテーブルが置かれ、そこにランプが灯されていた。
「……ここを整理してほしい」
カイゼル様が、少し気まずそうに言った。
「もちろんです。でも……なぜ急に?」
「……貴様に本を読む習慣があるかどうか知らんが、ここには魔界の書物が揃っている。人間の魔法書も少しある。読みたければ読めばいい」
私はきょとんとして、また棚を見渡した。
「……私のために、ですか?」
「……暇は殺せ、ということだ」
カイゼル様は目を逸らしながらそう言った。
私は笑うのを抑えて、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
それから——毎晩、夕食後の一時間が、私の読書タイムになった。
魔界の歴史書は人間の歴史とは全く違っていて、興味深かった。
特に「魔王制の成立」と「魔界の瘴気の起源」については、引き込まれて夜更かしをしてしまうこともあった。
ある夜、一冊の本を手に取った。
表紙に魔界語で「ヴォルデリアの記録」とある。
開こうとした時——
「……それは、読まなくていい」
背後に、気配があった。
カイゼル様だった。
いつもは鋭い眼差しが、今日は少しだけ、違う色をしていた。
「……すみません」
私は素直にその本を棚に戻した。
そのまま別の本を手に取って読み始めると、カイゼル様はランプの傍らの椅子に腰を下ろした。
彼も一冊開いて、静かに文字を追い始める。
二人きりで、同じ部屋で、それぞれの本を読む。
その時間が——静かで、温かくて。
私には、十年間何一つなかった「安らぎ」に感じた。
第十一話 完
お読みいただき、ありがとうございます!
図書室のシーン、如何でしたでしょうか。
語らずとも同じ空間にいられる二人の距離感、執筆しながらとても好きだなと思いました。
「ヴォルデリアの記録」が何なのか……少し先の話で明かされますので、楽しみにしていてください。
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