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第2話:大地、洞窟に入る

大地は、正直に言って気が進まなかった。


中山間地。

新しく見つかった洞窟。

前例なし。


ただし、それは

「崖崩れで偶然できた」

といった話ではなかった。


この辺りは、

定期的にパトロールが入る区域だ。


林道も、山道も、

新しく踏み込んだ場所ではない。


地図もある。

地質調査の記録も残っている。


それなのに――

誰も、この洞窟を知らなかった。


役所的に言えば、

かなり扱いに困る案件だ。


現地に着くと、市の出張所の職員たちが待っていた。


「これです」


案内された先にあるのは、

報告を受けた通りの洞窟。


写真で見たよりも、

実物は、さらに妙だった。


「……整いすぎてません?」


思わず口に出る。


自然の洞窟にしては、

入口の形がきれいすぎる。


崩れもない。

削った跡もない。


「ですよね」


出張所の職員も、苦笑いを浮かべた。


「正直、どう扱っていいか分からなくて……」


それを聞いて、大地は小さく息を吐いた。


「まぁ……とりあえず、

中の様子だけ確認してみましょうか」


言った瞬間、

周囲が一斉にざわついた。


「え、入るんですか?」


「危なくないですか?」


「専門家が来るまで待った方が……」


大地は、軽く手を振った。


「入口付近だけです。

危なそうだったら、すぐ戻ります」


そう言いながら、

自分でも少し軽かったかもしれないと思った。


洞窟の入口の前で、大地は一度立ち止まった。


「……暗いな」


入口の先は、光を吸い込むように黒い。

中の様子は、外からはほとんど分からなかった。


大地は、ヘルメットを軽く叩いた。


ヘッドライトはすでに装着済み。

足元は、山歩き用の安全靴。


作業着姿で、

中山間地の現場に立つには慣れている。


「一応、ガスの確認だけします」


そう言って、大地は腰のポーチから

携帯用の酸素計と二酸化炭素検知器を取り出した。


洞窟の入口付近で、数値を確認する。


「……酸素、正常。

二酸化炭素も問題なし」


少なくとも、

入った瞬間に倒れるような状況ではない。


「今のところは、大丈夫そうです」


もちろん、

これで安全が保証されるわけじゃない。


だが、

確認せずに踏み込むほど無謀でもない。


大地は、後ろにいる職員たちを振り返った。


「何かあったら、すぐ戻ってきます。

奥まで行くつもりはありません」


それは、

周囲への説明であると同時に、

自分への確認でもあった。


正直に言えば、

仕事としては

“専門家を待つ”選択肢もある。


だが――


この洞窟は、

あまりにも整いすぎている。


現代で、

地図も調査記録も揃っている場所に、

こんなものが見落とされるはずがない。


少しだけ、確かめたくなった。


それが、

松本大地という人間だった。


「……じゃあ、行ってきます」


一歩、踏み出す。


何も起きない。


空気は普通だ。

息もできる。


ヘッドライトの光が、

洞窟の内側を照らした。


――拍子抜けだな。


そう思った瞬間。


視界の端に、

青白い何かが揺れた。


「……?」


足元を見る。


そこにいたのは――

スライムだった。


透き通った、青い体。

ぷるぷると揺れている。


よくあるゲームのスライムに、

驚くほど近い見た目。


「……あー……」


声が、自然と間抜けになる。


すると、そのスライムが、

ぴょん、と跳ねた。


「こんにちは」


大地は、固まった。


「え?」


「人間さん、だよね?」


喋った。


普通に。

流暢に。


「……え?」


二度目の「え」が、

さっきよりも小さく出た。


「やっぱり!

久しぶりの外の人だ!」


スライムは嬉しそうに跳ねる。


「……すみません」


大地は、思わず敬語になった。


「えっと……あなたは?」


「ぼくはリム!」


スライムは、胸を張るように膨らんだ。


「この階層の案内役だよ」


「……案内役?」


「うん!

人間さん、初めてでしょ?」


リムは、当然のように言った。


「ここはダンジョン。

いきなり奥に行くと、

たいてい死ぬからね」


一瞬、

大地の背中を冷たいものが走った。


「……死ぬ?」


「うん」


リムは、あっさり答えた。


その直後。


大地の視界に、

見慣れない文字が浮かび上がった。


【ステータスを確認しますか?】


「……は?」


リムは、にこにこしながら言った。


「だいじょうぶ!

みんな最初はそうなるから!」


大地は思った。


――ああ、これ。

――完全に、

――普通じゃないやつだ。

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