第1話:山の中で、見つかってはいけないものが見つかった
「……ここ、前から洞窟ありました?」
市の出張所に勤める職員が、山道の点検中に立ち止まった。
中山間地。
過疎が進み、若者も少ない。
山と畑と、たまに獣害対策の柵があるくらいの場所だ。
その日も、いつも通りの仕事のはずだった。
――それを見るまでは。
山道の脇。
斜面の陰に、洞窟があった。
人ひとりが、少しかがめば入れるくらいの大きさ。
特別大きくもないし、派手でもない。
崩れた様子はない。
掘った形跡もない。
ただ――
不自然に整っている。
「地図に……載ってないよな?」
スマホで地図を開く。
紙の地形図も確認する。
どこにも、記載はなかった。
誰かが言った。
「最近、できたんじゃないですか?」
だが、その言葉にうなずく者はいなかった。
なぜなら、その洞窟は――
最初から、そこにあったように見えたからだ。
念のため、写真を撮った。
だが、画面に映った洞窟は、どこかおかしかった。
奥行きが、分からない。
暗いはずなのに、暗さの“底”がない。
ライトを向けても、
光がどこまで届いているのか判断できなかった。
「……気味悪いな」
冗談めかして言った声が、
やけに乾いて聞こえた。
その場では、誰も中に入らなかった。
事故が起きれば、責任問題になる。
ここは行政の仕事だ。
洞窟の位置を記録し、
写真を添えて、
「未確認の自然地形」として報告する。
ただ、それだけの対応だった。
この時点では、まだ誰も思っていない。
これが――
国の形を変えるものだとは。
翌日。
市の出張所は、少しだけ慌ただしかった。
「地質図と合わない」
「自然洞窟にしては形が整いすぎている」
「でも、人工物でもない」
市の技術の人間の意見は、どれも歯切れが悪い。
結論はひとつだった。
「……県に上げましょう」
市では判断できない。
責任も取れない。
そうして、報告は県庁へと回された。
その書類が届いた先にいたのが、
中山間地担当の県職員だった。
山間部。
過疎地。
獣害。
老朽化したインフラ対応。
誰もやりたがらない仕事を、
淡々と引き受けている男。
「洞窟?」
電話口で、男は少し間の抜けた声を出した。
「ええ。
新しく見つかった洞窟で、
市では前例がなくて判断に迷っていまして。
一度、県の方に確認を、ということで・・・」
一瞬の沈黙。
「……分かりました。
じゃあ、とりあえず現地、見に行きます」
男の名は――
松本大地。
この時、彼はまだ知らない。
その洞窟が、
自分の人生だけでなく、
日本という国そのものを引きずり込む場所だということを。
第1話を読んでいただき、ありがとうございます。
この作品は、日本にダンジョンが現れた「そのあとの日本」を描く物語です。
次回から主人公が本格的に動き出し、
世界も少しづつ、取り返しのつかない方向へ進んでいきます。
よろしければ、続きを読んいただけると嬉しいです。
とりあえず、完結まで頑張ります!




