第40話「転移城の記憶・神の間へ」
モルテア・封印領域・王都城内部。
レイは静かに歩いていた。
かつて王都の中心だった城は、今やモルテアの森の奥に転移され、誰も近づけない“封印領域”となっていた。
「……すごいな。これが王都の城か」
壁には金装飾が施され、天井には精緻な魔法紋様が描かれていた。
廊下の両側には、歴代の王の肖像画が並ぶ。
「この絵……何百年分あるんだ?」
リゼが後ろから歩いてきて、静かに言った。
「恐らく、王都側は城の返還を求めてくるでしょうね。
象徴ですから。失ったままでは、国の威厳が保てない」
レイは肩をすくめる。
「でも、魔力を相当使ったから……戻すには王都の魔法使いを何人も集めないと無理かな。
僕一人じゃ、もう限界」
リゼは立ち止まり、肖像画を見つめる。
「返還には慎重であるべきです。
この城は、彼らの過去そのもの。
でも、我々にとっては“証”でもある」
レイは頷きながら、奥へと進む。
やがて、重厚な扉の前に立つ。
「ここは……教会?」
扉を開けると、荘厳な空間が広がっていた。
ステンドグラスから差し込む光が、中央の祭壇を照らす。
そこには、一体の神像が祀られていた。
翼を持ち、剣を掲げた神――その名は《セレオス》。
リゼが小声で言う。
「王都の守護神……セレオス。
戦の加護を司る神です」
レイは祭壇の前に立ち、静かに手を掲げる。
「……召喚術、試してみるよ。
この神が、ただの像なのか――それとも、本当に“存在”するのか」
魔方陣が展開され、空気が震える。
「召喚魔法――《神降の環》!」
祭壇が光に包まれ、空間が軋む。
そして――神像の瞳が、ゆっくりと開いた。




