第33話「炎の咆哮・忠義の牙」
モルテア南部・訓練場裏の森。
バルは一人、木々の間で拳を振るっていた。
炎を纏うオーク進化体――その姿は、しなやかで力強い。
「レイ兄貴のために、もっと強くならなきゃ……!」
彼女の瞳は真っ直ぐだった。忠義と誇りが宿っていた。
その時、風が止まった。
「……ん?」
木々の間から、黒衣の影が現れる。
王都最精鋭《黒衣兵》50名。バルの暗殺部隊だ。
「標的確認。オーク進化体・バル。排除開始」
バルは拳を握る。炎が指先に灯る。
「50人か……ちょうどいい。燃えてきたわね」
兵士たちは一斉に魔法と物理攻撃を放つ。
火球、氷槍、雷撃、剣、槍――
だが、バルは笑った。
「火を使うなら、私より熱くなってから来なさい!」
彼女の体が炎に包まれる。
オークの筋力と進化体の魔力が融合し、炎の鎧が発動。
剣が触れた瞬間、焼け落ちる。
氷が近づけば蒸発し、雷は炎に飲まれる。
「さぁ、焼き尽くしてあげる!」
バルは突撃する。
拳が唸り、兵士の胸甲を砕き、炎が体を包む。
一人目、二人目――
燃え上がる拳が、次々と兵士を地に沈める。
「私は、レイ兄貴の“牙”よ。誰にも、兄貴の国は渡さない!」
兵士たちは空中から弓を放つ。
だが、バルは炎を纏った跳躍で空を裂き、弓兵を叩き落とす。
「空も、地も、私の戦場!」
地面を踏み鳴らすと、火柱が立ち上がり、兵士たちを包む。
「ぎゃあああっ!」
最後の一人が逃げようとした瞬間、バルの炎が地を走り、足元を焼く。
「逃げるの? つまらないわね」
拳が振るわれ、森の奥で爆音が響く。
──静寂──
森には、黒衣兵50名の焼け跡が残されていた。
バルは拳を握り、炎を収める。
「レイ兄貴……守ったわよ」
そして、彼女は森を後にする。
その頃、王都では報告が届いていた。
「……バル、暗殺失敗。部隊全滅」
ガルドは拳を震わせる。
「……残るは、リリィとミュー。必ず沈めろ」
戦争前の暗殺作戦は、もはや“戦争そのもの”へと変貌していた。




