第29話「封印の紋・剣は抜けず、帰還の光」
モルテア国・武道場。
夕暮れの空の下、アレンは剣の手入れをしていた。そこへ、重厚な足音が響く。
「……久しいな、アレン・グレイバー」
振り返ると、王都イグナリスのギルド長――エルドラン・ヴァルクスが立っていた。黒の軍装に身を包み、冷たい視線を向けている。
「王都に戻る気はないか?」
アレンは立ち上がり、静かに言った。
「俺はこの国に残る。ここで、もう一度剣を振るうと決めた」
エルドランは一瞬、目を細め、そして低く呟いた。
「……では、戦争だな」
その瞬間、彼は剣に手をかけた。
「挨拶代わりに、今ここで貴様を斬る」
だが――
剣は、鞘から抜けなかった。
「……なっ……!? 動かん……!」
彼の手の甲に刻まれた紋様が淡く光り、鞘口に封印の魔力が走る。
「この紋様……!」
その瞬間、地面に魔法陣が展開され、空間が揺れる。
そこに現れたのは――レイ・ファルシオン。
彼の手にも、同じ紋様が刻まれていた。
「モルテアに入国した時点で、手の甲に“封印紋”が刻まれる。国の中での攻撃行動は、すべて制限されるんだ」
エルドランは歯を食いしばる。
「貴様……こんな術を……!」
レイは静かに言った。
「この国では、力を振るう前に、言葉を交わすのが礼儀だよ」
そして、指を鳴らす。
次の瞬間――
空間が裂け、エルドランの体は光に包まれた。
「待て、レイ!貴様――!」
叫びは届かず、彼の姿は一瞬で消えた。
王都イグナリス・ギルド庁舎。
光の柱が収束し、エルドランが床に膝をついて現れる。
「……転移魔法……しかも、強制送還……!」
その場にいた騎士たちが驚愕する中、エルドランは拳を握りしめた。
「レイ・ファルシオン……貴様は、神の秩序すら拒むか……!」
そして、戦火は避けられぬものとなった。
モルテア国と王都イグナリス――二つの国家の衝突は、いよいよ始まる。




