第25話「勇者の再会・王は広場にて」
モルテア国・北門。
巨大な土の壁に囲まれた国の玄関に、一人の男が立っていた。かつて王都で名を馳せた元Sランクパーティーのリーダー――勇者アレン・グレイバー。
「……これが、レイの作った国かよ」
壁の高さは20メートルを超え、精霊紋が脈打つように輝いていた。かつての仲間を“無能”と判断し、追放した男の目に映るその光景は、あまりに現実離れしていた。
門番が声をかける。
「初めての入国ですか?」
「……ああ、そうだ」
「では、こちらに手をかざしてください」
展開された魔法陣に手をかざすと、アレンの手の甲に淡い紋様が浮かび上がる。
「その紋様は、あらゆる暴力行為を封じるものです。この国にいる間、武器も魔法も攻撃には使えません。国を出ると、紋様は消えます」
「……ずいぶん徹底してるな」
「秩序のためです。入国を許可します」
アレンは一歩踏み出し、門番に尋ねた。
「レイに会いたい。どこにいる?」
門番は少し驚いたように微笑んだ。
「国王には通常、容易く会えませんが……我が国の王は普通ではありません。広場で子供達と遊んでおられますよ」
「……王が、広場で?」
「ええ。あの方は、民と共に生きることを選ばれたのです」
案内された先は、中央広場。
そこには、王の衣を脱ぎ捨て、子供たちと泥だらけになって遊ぶレイ・アストリアの姿があった。
「……久しぶりだな、アレン」
レイの声は静かで、どこか遠くを見ているようだった。
アレンは言葉を探しながら、ようやく口を開いた。
「お前……本当に、国を作ったのか」
「そうだよ。守るためにね。誰もが生きられる場所を」
「……王都は、お前を“脅威”と見てる。俺は、お前を連れ戻すために来た」
レイは目を伏せ、静かに言った。
「今さら、何を?」
「俺は勇者だ。かつてはSランクの頂点にいた。だからこそ、今なら――お前を理解できるかもしれない」
「僕は、もう王都には戻らない。ここが僕の国だ。僕の仲間がいて、僕の責任がある」
アレンは拳を握りしめた。
「……あの時、俺たちは間違ってた。お前を“無能”だと決めつけて、追い出した」
レイは微笑む。
「でも、そのおかげで僕はここにいる。だから、後悔はしてないよ」
沈黙の中、アレンは静かに言った。
「……俺は、もう一度剣を握る。今度は、守るために」
レイは頷いた。
「この国では、誰もが選べる。君も、例外じゃない」




