第23話「落ちた英雄・酒と命令と召喚士」
王都・第三区の酒場《黒獅子亭》。
昼間から酒に溺れる男がいた。Sランクパーティーのリーダー、勇者アレン。
「……もう一杯だ……」
顔は赤く、目は虚ろ。テーブルには空のジョッキが並び、剣は鞘ごと床に転がっていた。
周囲の客たちは、ひそひそと囁き合う。
「またランクが落ちたらしいぜ。あの“勇者パーティー”」
「召喚士が抜けてから、ひどい有様だそうだ」
「Dランクのダンジョンもまともにこなせないって話だ」
「昔はSランクだったのに……」
アレンはその声に反応せず、ただ酒をあおる。
だが、酒場の扉が重く開いた瞬間、空気が変わった。
王都兵が数名、堂々と入ってくる。
「アレン・グレイバー。王都ギルド本部より、出頭命令が下った。今すぐ同行願う」
アレンは眉をひそめ、ジョッキを置いた。
「……何の用だ。俺はもう、パーティーも解散寸前だぞ」
兵士の隊長が一枚の書状を差し出す。
「件の召喚士、レイ・アストリアについてだ。貴様は彼を追放したパーティーの勇者。事情聴取の対象となった」
酒場が静まり返る。
アレンは立ち上がり、剣を拾いながら言った。
「レイか……あいつが、国を作ったって話は聞いてる。だが、俺なら――連れ戻せる」
兵士たちは無言で頷き、アレンを連れて酒場を後にした。
その背中に、誰かがぽつりと呟いた。
「……連れ戻す?今さら、何様のつもりだよ」
だが、王都は動き始めていた。
レイ・アストリア――かつて“能力不足”と判断され、ギルドとパーティーから追放された男。
今や、神と精霊を従える“国主”として、王都の秩序を脅かす存在となっていた。




