第22話「壁の国・紋様と追放者の真実」
魔の森を抜けた王都の偵察隊は、目の前の光景に言葉を失っていた。
「……これは、村じゃない。まるで……城塞都市だ」
視界を覆う巨大な土の壁。高さは20メートルを超え、厚さは10メートル以上。精霊紋が刻まれ、魔力が脈打つように流れていた。
隊長グレイが呟く。
「どうやって、こんなものを……」
壁の北門に近づくと、門番が静かに声をかけてきた。
「初めての入国ですか?」
グレイは一瞬迷い、答える。
「はい、そうです」
門番は頷き、魔法陣を展開した。
「では、ここに手をかざしてください。召喚士レイ・アストリアが設計した“入国認証陣”です」
グレイが手をかざすと、手の甲に淡い光が浮かび上がる。
そこには、複雑な紋様が刻まれていた。
「その紋様は、あらゆる暴力行為を封じるものです。この国にいる間、あなたは武器を振るうことも、魔法を攻撃に使うこともできません。国を出ると、紋様は消えます」
グレイは驚きながらも頷いた。
「……入国を許可します。どうぞ」
門をくぐった瞬間、空気が変わった。
街は整然とし、魔族や人間、亜人が共に働いていた。市場には交易品が並び、子供たちの笑い声が響く。
偵察隊は慎重に情報を集めながら、中心部へと向かう。
「この国の王は……レイ・アストリア。元王都の召喚士だそうだ」
「記録によれば、彼は“能力が低い”と判断され、ギルドからもパーティーからも追放された人物です」
「その追放者が、国家を築いた……?」
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数日後、王都・ギルド本部。
グレイは報告書を提出した。
「潜入成功。入国には魔法陣による認証が必要。暴力行為を封じる文様が刻まれ、国の秩序を保っている」
ギルド長エルドランが眉をひそめる。
「壁の件は?」
「はい。攻め込むのが困難なほど巨大な壁でした。精霊魔法による自動修復機能もあるようです」
「レイとは何者だ?」
「以前、王都の冒険者パーティーに所属していた召喚士です。ですが、魔力の異質さと成長の遅さを理由に、ギルドからもパーティーからも追放されたと記録されています」
沈黙が広がる。
エルドランは静かに言った。
「そのパーティーと、当時のギルド責任者を呼べ。話を聞く必要がある。追放した者が、今や国家を築いたのだ」
その命令は、王都の中枢に静かに伝達された。




