第16話「沈黙の帰還と地獄の紋」
王都・中央ギルド本部。
重厚な扉の奥、ギルド長エルドランは報告書を睨みつけていた。机の上には、再発行されたギルドカードが並んでいる。ブルゴス率いる調査団のものだ。
「……全員、死亡。しかも、加護の紋様が……消えている?」
ギルドカードには、通常刻まれている“女神の加護”の紋様が完全に消失していた。これは、ただの死亡ではない。魂が“神域”から外れたことを意味する。
「これは……地獄に召された証だ」
エルドランの声は震えていた。
加護の紋様が消える現象は、過去に一度だけ記録されている。神話級召喚によって、魂が“裁かれた”時――その者は、神の秩序から外れ、地獄へと落とされた。
「ブルゴスが……神に裁かれたというのか?」
騎士団長が言葉を失う。
「だが、神の召喚は不可能なはず。精霊の領域を超えるには、理論上“神域踏破”の称号が必要だ」
エルドランは静かに言った。
「その称号を持つ者が、現れたのかもしれん。モルテア国に」
沈黙が広がる。
「このままでは、王都の秩序が揺らぐ。だが、軍を動かせば第二のブルゴスになる可能性もある」
「ならば……どうする?」
エルドランは立ち上がり、窓の外を見つめた。
「もっと慎重にいこう。モルテア国に、密偵を送れ。表向きは交易使節。だが、目的はただ一つ――“神域踏破者”の正体を探ることだ」
その命令は、王都の中枢に静かに伝達された。
そして、モルテア国へ向けて新たな影が動き出す。