第14話「悪魔召喚・灼熱の審判」
広場に展開された黒い魔法陣は、まるで地獄の門のようだった。
空気が震え、風が逆巻き、空が赤く染まり始める。精霊たちは一斉に後退し、村人たちは息を呑んだ。誰もが本能的に理解していた――これは、精霊の領域ではない。
リゼがレイに駆け寄る。
「レイ!その魔力……精霊を超えてる。これは“深層召喚”よ。戻って!今ならまだ――」
レイは静かに首を振った。
「戻らない。僕は、もう見逃さない。誰にも、これ以上は奪わせない」
ギルドカードが漆黒に染まり、脈打つように魔力を放つ。地面が軋み、魔法陣が完全に展開される。
そして――炎の柱が天へと伸びた。
咆哮と共に、灼熱の魔族が現れる。
その姿は、炎そのものだった。全身が燃え盛る紅蓮の鎧に包まれ、瞳は溶岩のように赤く輝く。背中からは炎の翼が広がり、地面に立つだけで周囲の土が焼け焦げていく。
「命令を」
イフリートの声は、地鳴りのように響いた。
レイは一歩前に出て、静かに言った。
「この国を傷つけた者たちを――焼き尽くせ」
イフリートが咆哮を上げた瞬間、広場全体が炎に包まれた。
王都の兵士たちは防御魔法を展開するも、精霊の加護を超えた悪魔の炎に抗えず、次々と倒れていく。鎧は溶け、盾は焼け、叫び声が夜空に響いた。
ブルゴスは剣を抜き、魔力を纏って突撃する。
「異端が……悪魔を使うか!ならば、王都の力で――!」
だが、イフリートの拳が振るわれた瞬間、空間が歪み、衝撃波が広場を貫いた。
「…誰だお前…」
ゴミ虫を見るような目でレイはつぶやいた
ブルゴスの鎧が砕け、剣が折れ、地に伏す。
炎が彼の周囲を包み、逃げ場はなかった。
リゼはその光景を見ながら、震える声で呟いた。
「……これが、女神召喚の“裏側”……精霊の先にある、神話級召喚の真の姿」
村人たちは沈黙の中、レイの背に“国主”としての覚悟を見た。
イフリートは命令を果たすと、魔法陣へと戻っていった。炎は消え、広場には静寂が戻る。
レイは膝をつきながら、静かに言った。
「僕は……守っただけだ」
その言葉は、誰よりも重く響いた。