第1話「追放と始まり」
冷たい雨が降る王都の広場。石畳に打ちつける水音が、レイの心を容赦なく叩いていた。
「レイ、お前は今日限りでパーティを外れてもらう」
勇者アレンの声は、まるで裁きの鐘のように響いた。聖女ミリア、剣士ガルド、魔導士セリナ――かつて命を預け合った仲間たちが、今は冷たい目で彼を見下ろしている。
「お前の召喚するモンスターなんて、スライムやゴブリンばかり。正直、足手まといだったんだよ」
「でも……ミューの回復魔法がなかったら、ガルドはあの戦いで死んでたはずだ」
「は?あんな低級魔法、ポーションで代用できる」
「グラの毒霧で敵の動きを止めたから、セリナの魔法が通ったんだ。バルのシールドがなかったら、ミリアは――」
「黙れ!」
アレンが怒鳴る。事実を突きつけられるのが、何よりも不快なのだろう。
「お前の召喚魔法は、ただの雑魚を呼び出すだけ。Sランクパーティーにふさわしくない」
レイは言葉を失った。彼の召喚したモンスターたちは、確かに見た目は地味だった。だが、彼らの魔法は、戦場で何度も仲間を救ってきた。誰よりも献身的に、誰よりも誠実に。
それでも、彼らは“役立たず”と切り捨てられた。
その後、ギルド本部に呼び出されたレイは、最後の望みをかけてギルドマスターに訴えた。
「僕は……まだ戦える。モンスターたちとなら、きっと――」
だが、ギルドマスターは冷たく言い放った。
「王都としても、貴様のような者を置いておくわけにはいかん。勇者パーティから追放された者は、信用に値しない。ギルド登録も抹消する」
その言葉は、レイの心を完全に折った。
「……わかりました」
荷物をまとめ、王都を後にするレイ。その背に、誰も声をかける者はいなかった。
---
辺境の森。冷たい風が吹き抜ける中、レイは一人、歩き続けていた。
「……僕は、本当に無力だったのか?」
その問いに答えるように、草むらからスライムがぴょこりと顔を出した。
「レイ、だイジョウブ?」
それは、彼が初めて召喚したスライム――“ミュー”だった。勇者パーティから追放された後も、彼を探してついてきたのだ。
「ミュー……君は、僕を見捨てなかったんだね」
「レイ、仲間。ずっと一緒」
その後、ゴブリンの“グラ”、オークの“バル”、コボルトの“リリィ”など、かつて召喚したモンスターたちが次々と現れた。
「レイ様、我らはあなたに忠誠を誓います」
「レイ、国つくろう!みんなで住めるところ!」
その言葉に、レイの心に火が灯った。
「……そうだ。僕たちで国を作ろう。誰にも否定されない、モンスターと人が共に生きる場所を」
辺境の地に、誰も知らない小さな革命が始まった。
その日、レイは一本の木にナイフで文字を刻んだ。
「ここに、“モルテア”の礎を築く」
それは、誰にも知られていない、小さな国の始まりだった。
---