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終幕前夜 前編

真夜中。地平線の彼方まで伸びる黒いビル群の頂に、ぽつりと浮かぶ無数のヘリポートと広告塔の明かり。

その中でも、特に高く聳え立つ一棟の摩天楼。

その屋上が、今宵の舞台。


冷たい風が吹き荒れる高層ビルの屋上に、宗方由梨が静かに立っていた。

その表情はどこか、もう達観に近い虚無を湛えている。

黒いスーツの裾が風に舞い、手には愛用のグロッグ。


「……次は、お前か」


一方、鉄骨の上から堂々と飛び降りてきたのは風巻大吾。

動物のような鋭い眼差し。上半身はすでに裸、獣のような筋肉が唸りを上げている。

その背後には、鉄と風が絡み合うような――まさに獣人の気配が渦巻いていた。


「オレは……ここで終わる気はない、願いを叶えさせてもらうぞ」


宗方が一歩、前へ踏み出す。

風巻は咆哮のような笑い声をあげた。


その瞬間、空間に裂け目が生まれたかのように、宙から二つの気配が降り立つ。


「人間の戦いは子供の喧嘩に似ているな」

長身で、どこか古代ローマの武将のような出で立ちの男――アガレス。

ふわりと地面に着地し、宗方の背後に静かに立った。


「……獣が吠えるには、丁度いい夜風だな」

鉄製の仮面を被り、黒い外套に包まれた老人――マルバス。

彼は風巻の横に立ち、ひと息ついてから、指を鳴らした。


その瞬間、世界が静止する。

観客も無く、夜の風が叫び声のように唸るだけ。

だが、この戦いを見下ろす者たちは確かにいる。

“彼ら”――十二の悪魔たちは、すべての戦いを楽しんでいた。


「苛烈な戦いを生き残った強者たち……見応えのある戦が始まるのかしら」

アガレスがつぶやく。


「だが結果は変わらん。勝つのは我が戦士、風巻大吾だ」

マルバスは確信したように答える。


風が屋上のフラッグを激しく揺らす。

照明塔の明滅が、まるで戦場を照らすライトのように点滅する。


そして――


「始めましょう」

宗方が静かに呟いた。


「……ああ、狩りの時間だ」

風巻が牙を剥き、姿勢を低く構えた。


摩天楼の屋上で、ついに戦いの幕を開ける――。


屋上の無機質なコンクリートを踏みしめ、二人の距離がゆっくりと縮まっていく。

真上から降り注ぐ満月の光が、彼らの輪郭を白銀に縁取る。


宗方由梨は腰を低く構え、指先からじわじわと黒い影が漏れ始めた。

その指先の動きに連動するように、足元の影が歪み、蠢く。


「影の……手?」


風巻大吾はその動きに興味深そうに眉をひそめた。

だが、次の瞬間にはすでに姿勢を低くし、四肢の筋肉に力を込めている。

風が吹き、気圧が揺らぐ。


――一陣の風。


風巻が動いた。猛獣のような加速で間合いを詰め、一気に宗方の懐へ踏み込む。


「ッ!」


宗方の影が瞬時に反応する。

地面から咄嗟に現れた三本の影の手が、風巻の足元を絡めとるように伸びてきた。


「おもしろい……」


風巻は笑いながら、強引に踏み潰すように影を引き裂き、拳を振るう。

その拳に巻かれた風は鋭利なドリルのように絡みつき、風を巻き上げて宗方の腹部を狙った――!


しかし宗方はそれをギリギリで見切る。

影の手を地面に這わせ、爆発的な反動で自らの身体を横に跳ね飛ばす。


ドガァン――!


風巻のドリル状の風がコンクリートの床を粉砕する。

その衝撃で舞い上がる砂塵と破片の中、宗方はすでにグロッグを構えていた。


「……出し惜しみはしないよ」


パスンッ――

乾いた発砲音。

だが、風巻は頭をわずかに傾け、弾丸を紙一重で回避する。


「銃か? 腕は悪くない……」


再び距離を詰める風巻。

その足元には、なおも絡みつくように影の手が蠢いている。

宗方は一瞬、口元を吊り上げた。


「あなたの足元……気づいたほうがいいわよ」


見ると、風巻の足首には影の手が絡みついていた。

それに気づいた風巻は、わずかに苦笑を漏らす。


「なるほどな……だが、オレの力を見くびったな」


風巻が両腕を広げた瞬間、突風が屋上に吹き荒れた。

その風圧で鎖が引きちぎられ、風巻の身体が後方へ跳躍するように解き放たれる。


「……上出来だ。生き残りにふさわし滑り出しだな」


アガレスが満足そうに笑う。


「まだまだ。これからだ……」


マルバスは目を細め、血の匂いを嗅ぐように空気を味わった。


戦場の風が唸り、影が伸びる。

嵐の始まりを予感させながら、この戦いの幕を大きく開け放った――。


「――逃がさない」


宗方由梨の冷ややかな声が、屋上に残る余韻を引き裂いた。

彼女の足元から、地面に映る影が瞬く間に広がり、その輪郭がぐにゃりと歪む。

影の中から無数の腕――いや、影そのものが具象化した手が伸びる。


それはもはや手というより捕縛の触手。

一本一本が意思を持ったかのように蠢き、風巻の足元へ、背後へ、頭上へと襲いかかる。


「チッ……またか!」


風巻大吾は即座に反応した。

だがその動きを――宗方の影が封じた。

足首に巻きついた一本。背後から肩を捉えた一本。

さらに横合いから伸びてきた影が、風巻の腰を締め上げる。


「な……ぐっ!」


「動けないようね?」


宗方の指がピクリと動く。

その仕草と連動し、影の手たちはギチギチと風巻の肉体を締め付ける。


――ギャリィン!!


だが、風巻の体が鈍い金属音を立てて変化する。

皮膚が、肉が、骨が――鉄の皮膜に覆われていく。

かつて鹿倉翔伍から奪ったあの能力、「鉄化」がここで牙を剥く。


「……なるほど、風の能力だけが主役じゃないってわけね」


宗方は呟くと、今度は自身の腕を掲げた。


「だったら、こっちの力も使わせてもらうわよ」


ゴウンッ――!


宗方の右腕が変形を始めた。

装甲のように肥大化し、内部のメカニズムが露出する。

銃剣とも斧ともつかぬ武器の形状へと変わり、その表面は漆黒の光を放つ。


「武器化、ね……」


影の手で風巻を拘束したまま、宗方は無慈悲な一撃を叩き込む。


――ズドォッ!!


風巻の腹部に武器化された右腕が突き刺さる。

鉄化した身体でも耐え切れず、軋むような音が鳴った。


「ぐっ……!」


だが風巻は倒れない。

そのまま右足を踏み込み、全身に風圧を集中させる。


「だったらこっちも、全開でいかせてもらう!!」


風巻の身体から炸裂するように衝撃波が放たれた。

拘束していた影の手が一瞬で吹き飛び、宗方自身も数メートル後方へと弾き飛ばされる。


「っ……!」


宗方は体勢を立て直し、影で軟着陸するが――

鉄の一撃は、彼女の肋骨にひびを入れていた。


「ふふ……いいね、これくらい痛い方が……闘ってるって感じがするわ」


「……やはりお前、まともじゃないな」


風巻は額の汗を拭うこともせず、静かに息を整えた。

その目には、獣のような冷たさと、人間のような理性が宿っていた。


風巻の衝撃波が炸裂した瞬間、摩天楼の屋上に積もった砂埃が吹き飛び、空気が揺れた。


宗方由梨の体は、ビルの縁ギリギリまで弾き飛ばされる。


「……っ、くぅ……」


口元から血を滲ませながらも、宗方はすぐに立ち上がる。

だが、風巻は一歩も追撃に動かない。彼の目が、彼女の“動き”を見ていた。


「なるほどな……あの影の手と武器化の連携、想像以上に厄介だ」


風巻は鉄化した腕を解きながら構える。が――次の瞬間、彼の瞳に映る宗方の姿が、かき消えた。


「……消えた!?」


ザザ……という音が、風巻の背後でかすかに鳴った。


その直後――


パンッ!!


乾いた銃声。

風巻の肩口が火花を散らしてえぐられる。


「ッ!?」


すかさず鉄化が発動し、銃弾を弾くが、すでにダメージは入っていた。


(……グロッグ……! あの女、姿を消した上での狙撃……!)


ビルの屋上。四方に設置された空調機器の影、ヘリポートの照明塔、給水タンクの裏――

宗方は、そのどこかに潜んでいる。だが目視では見えない。幽体化しているからだ。


「なるほど、素の能力の幽体化と、それに狙撃の組み合わせと言うワケか……」


宗方の声が、風巻の背後から聞こえたかと思えば――


パン! パン! パン!


三発連続の狙撃。

風巻は素早く肩と胸を鉄化させ、反射的に全弾を弾く。


「ふんっ……!」


振り返るがそこには誰もいない。


(……撃っては消え、消えては撃つ……)


幽体化の効果が切れる瞬間だけ物理干渉が可能になる。

狙撃のたびに姿を実体化し、すぐさま幽体へと“フェードアウト”しているのだ。


「撃てる場所に誘導する……いや、それは無理か……!では……」


風巻は焦燥の中、右手を自身の鼻に当てた。

狼の鼻――獣化した鼻孔が、宙に漂うかすかな匂いを捉える。


(……火薬と、銃油の匂い……!)


風巻の視線が、左後方の空調ユニットの奥へと動いた。


「そこだッ!!」


叫ぶと同時に、風の奔流が吹き上がる。

竜巻がその一点を目がけて放たれ、空調ユニットごと巻き込む。


「うわっ――!?」


宗方が幽体化を解除していたタイミングだったのか、巻き上げられた彼女の体が竜巻に浮かび、空中で翻弄される。


「……くっ、見つかったか……!」


その唇に血をにじませながらも、宗方は笑っていた。

戦場は、ますます混沌の色を濃くしていく――。


—————ビュワァァァァ!!


宗方由梨の体は、ビルの屋上から空へと巻き上げられていた。

風巻が放った音速の竜巻が、彼女の身を無慈悲に宙へ投げ出していたのだ。


「ぐっ……!」


もがき、バランスを取り戻そうとするも、幽体化が間に合わない。


(……しまった、幽体化の猶予が……ッ)


竜巻内部の激しい気圧変化が、彼女の“思考”すら乱していた。

彼女は咄嗟に、かつて奪った能力を思い出す。


――装甲車の装甲。


「……これでどうにか……しのげるか!」


落下の瞬間、宗方の身体が金属のきしみをまとい、分厚い装甲板の層に包まれる。

皮膚の下からせり出すそれは、かつて国家が暴動鎮圧に用いた重量級の装甲の物と同じだった。


直後、風巻の風の爪が宗方の装甲をなぞるように斬りつける。


ギィイィィインッ!


火花が散り、屋上の縁で宗方の身体が跳ねた。


風巻は、一瞬その光景にため息を漏らす。


「まだ立つのか……いや、立てるのか?」


宗方の身体はビルの縁で仰向けに倒れていた。

装甲はヒビ割れ、左腕の装甲板は剥がれかけ、煙がくすぶっている。


「あの風にも耐える……鉄の皮膚、案外、頑丈ね……」


血を吐きながら、宗方は笑っていた。


(次は……こっちの番)


だが、風巻は一歩も油断しない。

彼の両腕はすでに獣化で膨張し、爪の風が渦を巻いていた。


「……あの装甲、もう一度使えるのか? それとも、幽体に逃げるか?」


風が鳴った。鉄がうなった。

摩天楼の屋上で、風と影の狩人たちが再び牙を剥く――。


ビルの屋上に、焼け焦げた鉄と血の臭いがこびりついていた。


宗方由梨は、裂けた装甲車の装甲でようやく竜巻の直撃を防ぎきったものの、身体の中には重い衝撃が残っていた。

左腕は感覚がなく、口からは血が滲み出る。目の焦点も定まらない。


「は……はは……やるわね、アンタ……」


その呟きを風がかき消す。


ザリ……ザリ……


風巻大吾の足音が迫ってくる。


彼の肉体は、もはや“鉄”ですらなかった。


いや、鉄だった。だが、液体だった。


「…………終わりだ、宗方」


低く、獣じみた声。


そこに立っていたのは、ドロドロと溶けた鉄の塊と化した風巻大吾。

その溶鉄の中で、かつての人間の面影はほとんど残っていない。


皮膚は光沢を帯びて粘性を持ち、肩口からしたたる金属の滴が床を溶かす。

床のコンクリートは鉄の熱で黒く焦げ、ビルの構造自体が軋む。


「溶けた……鉄……?」


宗方はよろけながら拳銃を構える。だが、手は震えていた。


「甘いな」


溶鉄の風巻が、流体のように宗方へ迫る。


刹那。

宗方の下半身を、溶鉄の腕が包み込んだ。


「ッ――ああああああああああっ!」


熱い。痛い。焼ける。


装甲の鉄すら融かすその熱が、宗方の体をジリジリと侵食していく。

蒸気が立ち昇り、皮膚が泡立つ音がした。


「これが“終わり”の触感だ。ありがたく感じろ」


冷酷な声と共に、風巻はさらに圧を加える。


宗方の脚部は黒く炭化し、右脇腹までが焼き切れようとしていた。

このままでは――いや、すでに――致命傷。


それでも宗方は――


「……ふふ、言ったでしょ……あれ?言ってなかったかしら……あたしは、終わってない」


焦げた歯の隙間から、笑みすら浮かべていた。


――体の芯が、冷たい。


宗方由梨は倒れていた。

焼けた鉄の毒気が、皮膚を裂き、内臓にまで染み込んでいる。


足はもう動かない。息も浅い。

幽体化すら使う余力がないと、直感で理解していた。


それでも、彼女の目は閉じなかった。



そう言えば、宗方と相沢の戦いで宗方が、自分の能力を幻術と嘘を付いてた事に気づかず、相沢が死んだために宗方の能力を、幻術だと信じ込んでた人が居たみたいだから。この場を借りてお詫びします。


今更なですが、宗方の能力は幽体化です。


担当悪魔は聞けばパートナーの質問にある程度、(名前とかざっくりとした能力とか)答えてくれるけど全部は教えてくれないのだよ。


相沢は基本、悪魔に相手の能力とか聞かなかった。(馬鹿だから)

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