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プロローグ

テンポ重視でサクサク読める、短編オムニバス形式のデスゲーム小説に仕上げました。


各章ごとに主人公が入れ替わり、それぞれの欲望と敗北が描かれる。

“勝者は一人”。その瞬間まで、誰が生き残るのか──


ようこそ、地獄の舞踏会へ。

よろしくお願いいたします。

人間の頭蓋骨を削って作られた燭台が、微かに燻る蝋の香りを撒き散らす。

その光は金箔を貼られた大理石の柱に反射し、まるで天国に似せた地獄のように空間を照らしていた。


ドーム状の天井には、逆さ吊りにされた処刑囚の骨で作られたシャンデリアが揺れ、

空間全体にはベートーヴェンやバッハの旋律のようでいて、どこか狂った旋律が管弦のように鳴り響いていた。

その音は、確かに美しかった。ただし、それを奏でているのが脳を削がれた人間のオルガン奏者であることを知らなければ。


パンデモニウム──地獄における最高位の悪魔たちの社交界。

広場には、悪魔たちが退屈を塗り潰すためのオーバーな身振りと作り笑いに満ち、

骨のステッキを振り回して笑い、ドレス姿で人間の皮を編んだダンスホールを軽やかに舞っていた。


その一角、黒曜石の階段を見下ろすテラスにて、二人の悪魔が静かに言葉を交わす。


「パンデモニウムの装飾からは相変わらず腐臭がするわね」

金色の喉飾りを巻いた女悪魔──アスモデウスが、手にした血のような葡萄酒を軽く揺らしながら言った。

「醜く、無様で、劣等感を傲慢で誤魔化し、魂から湧き上がる飢餓を、肉体の飽食で塗り潰す。

 幸福感なんて虚飾の産物。いつ見ても、軽蔑と嘲りの念しか湧かないわ」


「それが悪魔ってもんだろ?」

煙草をくゆらせながら、アモンが笑う。

「露悪的で、権威を笑い、真面目ぶった人間を嗤う。

 自らの腐臭すら香水だと信じ込む。──それが俺たちさ」


ふたりの言葉が途切れた瞬間、

どこかでワルツの調べが跳ね、骸骨のダンサーが尻もちをついて骨を飛び散らせた。

その音に一瞬だけ空間が沸き立つ。

しかし、再び音楽と笑いの波に呑まれると、アスモデウスはため息を吐いた。


「……退屈ね」

「じゃあ、暇つぶしでもしようか」


アモンは杯を掲げた。


「ゲームをしよう。──地上の人間どもを集めて、願いと欲望をぶつけさせる」

「またいつものかしら?」

「いや、今回はちょっと違う。**“暗黒舞踏会”**とでも名付けようか。

 人間の本性をむき出しにして、互いの指輪を奪い合い、最後の一人が願いを得る」


「最後の一人?なら他にも参加者を募ると言うことかしら?」


その時、ワルツの合間から別の声が割って入った。


「いいね、それ」

黄金のマントを羽織ったベレトが笑う。


「そういうの、久しぶりにやってみたいと思ってた」

「フルフルも賛成だわ。そういう血の匂い、嫌いじゃないの」

「俺も俺も!」

「退屈しのぎにはちょうどいいだろう」

「生き残る人間がいたら、俺の城で飼ってやるさ」


──集まってきた悪魔たちは、次々と名を名乗る。


ベレト


フルフル


グラシャ=ラボラス


マルバス


バアル


ベリアル


アガレス


サレオス


アンドラス


アスタロト


「……私と彼女……アスモデウスを入れると12柱、か」

アモンが笑みを深めた。


その横で、アスモデウスが唇を吊り上げる。

アスモデウスの冷笑がパンデモニウムの空気を切り裂いたとき、

アモンは杯の中で揺れる液体を見つめたまま、ゆっくりと語りだした。


「よろしい、紳士淑女の諸君──だが、ただの殺し合いじゃ、芸がないだろ?もう少しルールを追加する」


アスモデウスが顎で続きを促すと、アモンは指を鳴らす。

広場の中心に設置された黒曜石の大盤が自動的に浮かび上がり、空間に巨大な都市の映像を投影する。


それは、夜の帳が一切開けないオフィス街──

**「永遠の夜」**と名付けられた、我々の現実に似て非なる閉ざされた都市。


「舞台はここ。人間たちには、それぞれランダムにこの都市に転送される。

 空もない、太陽もない、時計すら狂ったこの閉鎖世界で──

 ただ、殺し合うだけさ」


金属が擦れるような乾いた音が響き、映像の中に光る指輪が現れる。


「そしてこれが、今回のゲームの鍵だ。“指輪”──」


アモンが掲げたそれは、黒曜石とルビーが嵌め込まれた重厚な輪。

だが、それは単なる装飾品ではない。


「この指輪には、それぞれ異なる能力が宿っている。

 持ち主の精神と欲望に呼応して、唯一無二の力を発揮する。

 例えば、時間を止める者もいれば、肉体を武器に変える者もいる。

 だが──これらの力は、“疑わずに信じ切る”ことで初めて発動する」


「信じる者が、力を得るってこと?」


「その通り、アスモデウス。

 “こうなれる”と、躊躇なく思い込んだ者だけが能力を解放できる。

 能力の覚醒条件は、自我と欲望の一致。

 理性や常識に縛られていたら、何も起こらない」


アモンはにやりと笑った。


「つまり“自分の力を疑う奴から死ぬ”。──いい遊びだろ?」


フルフルは笑うでもなく、ただ目を細めた。


「勝者はどうなるの?」


「最後に残った一人だけが、願いを叶える。

 それも、“現実世界に干渉する形”でな。

 時間、生命、世界の理すら捻じ曲げる、我々の力を──好きに使える」



「死んだら?」

アンドラスが尋ねる。


「当然、魂ごと没収だ。

 地獄の資産にしてもいいし、装飾品に変えてもいい。

 俺たちが楽しめれば、あとは何でもいい」


グラシャ=ラボラスが踊るように言った。

「ねえ、その指輪は複数持ってもいいの?」

「勝者が指輪を奪うのは自由だ。ただし、奪える指輪は一つの勝利に一つだけ。

 このルールの性質上、勝ち残った者が有利になる──生き残るだけじゃダメな仕様さ」


そして、負ければすべてを失う。

奪われた指輪は新たな所有者に力を委ね、

魂はパンデモニウムの装飾品になるか、音楽の素材になるか、

あるいは悪魔の興味本位で壊されるだけだ。


アスモデウスは溜息混じりに言った。


「──なんて、退屈しのぎにしては悪趣味なこと」


「それが俺たち悪魔ってもんだろ?」


アモンが最後の酒を煽ると、音楽が一段と高らかに鳴った。

悪魔たちの影が広場に集い、ワルツの調べに合わせて輪を作り、

次なる悲劇の開幕を祝うかのように、舞踏を始める。


足元ではすでに、新たな12人の影が「永遠の夜」へと転送されていた。


名もなき願い。

救いのない欲望。

救済なき信仰。

──いずれも、ここでは滑稽なピエロ。


これは、すべての敗者に対する嘲笑の舞踏曲。

闇のなかで響くその序曲は、いよいよ最初の戦場へと歩みを進める。


──暗黒舞踏会、開幕。

12人の初戦はすべて書き終えてあります。

投稿ペースは速いと思いますので次の話までの待ち時間は少ないかと。

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