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第四章 お嬢様学校の深層

「あの。盛り上がっているところすいません。実は相談がありまして。えっとその、壁に貼ってあるポスター見て来たんですけど。あ、すいません。ここ座りますね。えっと」

 二人抱き合ったような体勢のまま顔を見合わせる。見られた恥ずかしさより毒気抜かれるが表現として適切だ。

 ぼさぼさした頭。埃っぽい皺の寄った制服。

 猫背で俯きがちで、受ける印象としては不健康そう――。

 一体いつから居たのかどこから見ていたのか。気配のなかった来訪者は突然来ていきなり部屋中心のソファに座ったかと思うと、そのまま喋り始めた。

「相談ってなんのこと?」

「今から説明しようとしてたの」

「実はですね」

 華英と園が会話してる間も勝手に話は勝手に進む。相談を引き受ける受けないでもなく、話を聞く聞かないでもない。二人に残された選択は、このまま立って聞くか座って聞くか。華英は腕を引き抜き静かに向かいに腰を下ろした。隣に、遅れて園も座る。

「盗撮されているんです」

 出し抜けに。間が生まれた。

 盗撮。誰であっても怖い言葉。とりわけ女の子に取ってはとてつもない恐怖を孕んでいるその言葉。しかし、それを聞いた二人は揃ってピンと来ていない。だって――。

「盗撮って」

「女子校で?」

 二言ともが綺麗に揃った。普段なら茶化す華英でも茶化す気にはなれない。俯いた来訪者の顔は真剣だったからだ。

「申し遅れました。私、三年一組の北条時子(ほうじょうときこ)と申します。以後お見知りおきを」

「はあ……」

 会話のペースや運びが独特な子だった。それともお嬢様ってのは皆こうなのか。華英が反応を示せないでいると園が口を開く。

「先輩なんですね。あたしは白百合友里園です。そしてこっちが姫野華英。二人とも生徒会で今年入った一年です。ご相談頂いた内容は漏らさないようにします。どうか、最初からあったことを全部説明してくれませんか? 一体いつから? どうして盗撮だと感じたんですか?」

 スイッチが入ったのか園の口は流暢に回る。

 真摯な態度に改めて心を決めたのか、北条はもう一度「実はですね」と言った。




「で? なんでも相談にのりますって?」

 北条は帰した。帰ったではなく帰した。ひたすらに喋り倒そうとする彼女に必要な情報だけを聞き、後は「じゃあ、何か分かったらこちらから連絡します」と一方的に告げた。

 聞き出したのは華英で、一方的に告げたのは園である。北条は口をもごもごさせていた。

 園は気まずそうに明後日の方向を見ている。

 放課後から直行したお陰でまだ日は高い。

「相談にのります。まずはなんでも仰ってみて下さい。お話はそれからって書いた。なんでも相談に乗って解決するとまでは言ってない」

「似たようなもんじゃん」

 園は不満そうに何か言い掛けて止めると、前校長机、現生徒会長机に座った。きいと椅子が回転し、華英の方を向く。むくれて顎にしわができていた。

「条件」

「言ってたね」

「それが生徒会の設立」

「そこが分からない。意味が分からない。ていうか今までなかったの?」

 生徒会などどこの学校にもありそうなものだが。ないなら作ればいい。

「あるにはあった。よくある雑用生徒会みたいな」

「雑用じゃないの? ここ」

 華英は床を指さした。てっきり学校の雑用係をさせられるのかと思っていた。書類整理。行事の進行。先生のお手伝い。おそうじ。

「必要なかったから無くなった。六年も前の話。そしてそれは関係のない話。この学校に必要だったのは、雑用は雑用でも、もっと汚い雑用」

 汚い雑用とは。華英のしたこの埃塗れのテーブル拭きや、未だ片付いていない掃除やらよりさらに汚い、それは――。

「ヤクザみたいな?」

「ヤクザの方がなんぼかマシかも」

 二人の間に嫌な沈黙が落ちる。

 ヤクザを知ってるからこその沈黙。

 あれより汚い仕事とは。

 観念したのか決心したのか園は机に肘をつき前のめりになった。偉そうなポーズ。だけど、体が右に傾いているせいで、全然様になっていないとぼんやり頭の隅で思う。


「生徒間同士のトラブルが裁判にまで発展した事例。計十二回」



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