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第十四章 暴力3

「相手がヤク中で助かったなあ。面倒にならずに済んで」


 救急車の到着と同時、警察も複数名やって来ると、現場状況からすぐ様、事件性を疑われることとなった。当然だ。華英には矢が刺さっており、手が拘束されている。直前に言い争っていたとの証言もあり、落ちた部屋には何の冗談か小指を噛み千切られたという者がいる。

 状況からして華英へ事件の加害者としての追求も十分に予想された。しかし、京極が薬物を使用していたという証拠が複数上がり、やがて売春斡旋の情報も出始めると、華英の扱いは完全に被害者に対するそれになった。

 脅迫を受けた。

 園がそう証言したそうだ。

 確かに脅迫を受けた。

 受けたが――。

 華英は想う。

 しかし、結局、京極はわたしたちをどうするつもりだったのだろう、と。今思えば、華英たちに手出しできない云々と言っていたような記憶があるが、じゃあどうするかとまでは、具体的に答えていなかった。

 記憶が確かならば。

「その、噛み……、北条先輩は?」

「お前が指噛み千切った奴か? そいつは」

 濁したのにそのまんま言われる。

 華英はべっと舌を出した。無視された。

「まだ検察から取り調べ受けている最中じゃないのか? 分からんが、そいつ中学生なんだろ。大したことにはならんだろ。お仲間の大学生は捕まったみたいだな。まあ、売春の斡旋もあったみたいだし、そっちは使用も売買もやっていたみたいだからな」

「ふうん」

 気のない返事をする。

 五年、十年。園の言葉を思い出す。

 京極は死に。在学中の危機は去ったと見るべきだろうか? いいや。北条時子がいる。ああして協力させられていたが、嵌められているようにも映った。年齢的に対した罪にも問われないであろう。北条は十五歳。だが未成年の場合、それでも子供は更生させるべきという信念の元、家裁に送られ判断させられる。今後すぐに戻ってくる可能性の方が高い。そこをどう対処すべきか。結論は出ないが、頭には入れておいた方がいいと留めた。

 菅原にまで警察の手は及んでいるのだろうか。彼女が薬をやっていたかどうか。半ば自供していたような気もするが、京極は発言の中で否定していた。一体どちらなのだろう。

「沙恵姉は?」

 怪我の影響、というよりは、まだ寝ぼけているからだろう。身体が上向いたまま、動けない今の状況のせいもあるか。

 多依は「そこ」と指差し、華英は首を起こして足元を見やった。室内はがらんとしている。静かだなと思っていたら個室だった。少し前に起きた時は、そこまで意識が回らず、すぐに寝てしまったから。

 時折、鼻を鳴らして寝息を立てている姉の姿があった。二番目の姉、沙恵。多依は、

「ずっと心配してたんだから」

 言い、沙恵の頭に手を乗せた。

「俺はな。華英」

 父が口を開く。その雰囲気に華英はびくりと肩を震わす。

「改めて分かったよ。お前は野放しにしちゃいけない奴だって。あっちでも耳疑うようなアレコレ起こしてくれたが、まさか、今の向こうにいた方が安全だなんて思ってもみなかった」

 深く鼻息を吐く。華英は鼻の頭に皺を寄せ精一杯の嫌そうな顔をしてみせた。

「だからな。もうちょい大きくなる内は一緒にいた方がいいな。向こうでは華英を守ってくれる奴もいる。転入だの手続きは俺が面倒見てやるから。金の心配はいらん。戻れ」

 そちらが追いやったんだろうにという言葉を呑み込む。今云うべきは文句じゃない。云うべきは……。

 皺寄せたまま、ひたすらにぶさいくな顔して華英は答える。

「むり」

「どうして」

 多依が問い質す。華英は皺を解き、首を巡らし、まっすぐに父を見やり、己が信念を伝えた。

「義理を果たす為」


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