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第十四章 暴力2

 華英は土下座する。

 心の中で精一杯の土下座をしている。


 そんな華英に向かって彼は言う。

「俺はな、華英。今まで色んな停学退学理由を聞いてきたもんだ。武勇伝染みた話からしょうもない話までな。校舎の窓ガラス全部割ってやっただの校内をバイクで走り回っただの窃盗で捕まっただの教師に暴力を働いただの。薬だ売春やってんのがバレた、なんてのもあったな。だけどな、お父さん、はじめてだ。

 人様の家の子の指、噛み千切ったって奴は」

「させ」

「あ?」

「すいませんでした」

 相手を萎縮させる眼光。普段の華英ならば、なんとはなしに受け流すところだろう。だが今は違った。己のやらかしたこと、状況、起きてから今まで伝ってくる情報、諸々含めて、華英は心身共にやられている。受け流すことができない。

 千石組。七代目組長。姫野三造(さんぞう)が華英を見下ろし立っていた。後ろには、黒スーツに身を包んだボディーガードが控えていて、きっと下には運転手を待たせているのだろう。

 三造は禿げ上がった頭を掻きながら華英に言う。

「なんだよ。ボウガン撃たれたって。一体、何をどうしたら学生同士の喧嘩でボウガン撃たれることがあるんだ? ああ?」

「ふっ、ふっ。ふふふっ」

 華英の隣に立っているのは一番上の姉だ。もう抑えきれない堪えきれないとばかりに腹を抱えて華英の惨状を笑っている。これは紛れもない嘲笑だ。

「逆に何で停学で済んだの?」

「俺が知るか。ま、相手にも落ち度があったんだろうよ」

 落ち度というか、なんというか――、華英は窓の向こう、春の日差し輝く、晴天の空を眺める。霧は出ていなかった。当然だ。ここは、山の下、街の病院なのだから。




 あの後――、

 かなり勢い付けて華英が相手に突進した為、通路から勢い余り下に停車していた車まで華英と京極由良は一緒に落下していった。

 下は車のルーフ。誰かさんの車のルーフをべこんとやってから、意識を失った両名は、そのまま救急車でこの病院に運ばれた。そして、


「あーあ。華英も遂に人殺しかあ」


 姉の多依は言い、さらにその腹を捩らせた。華英は唇を尖らす。誰かさんみたいに。

「正当防衛」

「人の指噛み千切って後追いかけってって正当防衛? 過剰にしてもやり過ぎなんじゃないの?」

「おめえも薬やってんじゃねえだろうなあ」

「やってないもん」

 拗ね、不貞腐れ、そっぽを向いた。このまま両手を掻き抱いてベッドに潜り込みたいところだったが、残念ながら今の華英の利き腕は塞がっており、脚は片方吊るされている。

 右腕骨折、左足首骨折、脳挫傷、それから、腹部を貫いた矢による損傷。


 華英は現在、頭から腕から脚から全身包帯塗れだった。


 京極由良は死んだ。

 頭を打って。即死だったらしい。

 ちなみに、京極は車のルーフを貫いてハンドルに頭打ち死んだ。

 落下した先は、自身の所有するフィアット。

 京極のフィアットはオープンカーだった。

 ルーフは折り畳める形式になっており、強度はそれなり。だが、人間が上から降ってきた時、耐えられる代物でなかった。

 それだけ。

 まして五階など。

 華英が落ちたのは横のインプレッサ。ルーフをべこんだ。


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