第十二章 失敗2
園の呼びかけに応じ中へと入る。
まりあとは、あまり接触しているところを見られたくなかった。エントランスは見た限り人はいない。園と華英が先程まで潜んでいた大学寮前駐車場。ここには少しだけ車が停められた。
その大半は敷地内の別の駐車場だ。ここは云わば、勝ち取った者だけが利用出来るラッキースペースということだろうと華英は解釈している。
置いてあるきりで、車にも人はいなかった。ここもクリア。
ちなみに、赤いフィアットと青のインプレッサは並んであった。京極と桜王子の物だ。
車の鍵を盗んで車内にあるであろう薬物の証拠を探す――という考えも無くはなかったが、部屋に侵入するより余程危ないと判断した。絶対見られる。
駆け足で急ぐ。
階段を。
エレベーターはあるが、エレベーターは乗ってしまった後で人が入って来られたら避けようがない。だから使わない。普通のマンションならばないのだろうが、ここは学生寮。二階の住人が七階の住人の部屋へ遊びに行く、そんなことがないとも限らない。それに、二階には洗濯室や自販機などがある。用心するに越したことはない。
問題があるとすれば園の身体能力だ。以前、学校の階段で息が上がっていたのを思い出す。左右のバランスもあるのだろうが、園自身、元々体力がないのであろう。
「ふぅ、ふぅ」
ひぃと言わないだけマシか。華英は、
「最悪、おぶるからね」
と言い、園はそれに対し、首を横に振った。
階数は五階。生徒会室と同じだ。ここ最近毎日上っているのだ。これくらいは軽く上ってもらわないと困る。
スマートウォッチを確認する。こっちも生徒会予算。園曰く、あるなら使って問題ないであろう。
鍵の受け渡しをしてから三分は過ぎていた。
まりあが鍵を盗む、脱衣所からエントランスまでの移動を加味すると、プラス三分は盛った方がいいだろう。いいや。京極が脱衣所で衣服を脱ぐ。様子をしばらく待ってからまりあが脱衣所へ入るという過程がある。ならば五分、いやいや六分は盛るべきか。ならばここまで計九分。
鍵の返却までの移動は下りの為、もう少し時間は短縮出来るだろう。思ったよりも時間が掛かっている。事前に練習でもしてみるべきだったか。しかし、それも危うい気がした。
いって、二十分と決めていた。
それ以上は成果の如何を問わず危険と判断し退却。
階段を抜ける。
階段は非常階段などでなく、普通に誰でも利用可能な、エレベーター横にあるものな為、出る際、周囲を伺うことは忘れない。
誰もいなかった。がらんとした通路。蛍光灯が等間隔で灯っている。場所柄、夏は虫が酷いという。小さな蛾が二匹飛んでいた。
華英が首で示し、通路を行く。肩で息した園が後に続く。
一、二、三、四、五、これだ。
最奥。角部屋。505。ネームプレートには京極由良と書いてある。言った通り、同居人の名前はなかった。詰めていた息を吐く。けれどここからだ。
まごついてはいられない。手渡された鍵を素早く鍵穴に差す。かちゃりと音がして、ぎいと扉が鳴った。建て付けが悪い。心臓にも悪い。
廊下は真っ暗で、誰もいなかった。靴はたくさん。衣装持ちなのだ。そうに違いない。自分を納得させる作業。
当然といえば当然なのだが、ひとつひとつの要素に心が動かされてしまう。華英だって女の子だし人間だ。人からどう云われようとも。
怖い時は怖い。
どきどきだってする。
つくりは華英の知っているものと少し違った。
扉がふたつあった。中学生寮はみっつ。ひとつはキッチンダイニングに繋がる扉で、大学生寮はどうやら玄関廊下からそのままキッチンへと続く所謂2Kの間取りらしい。これは却って好都合。一部屋調べなくて済む。
そして、里へ下りる大学生の気持ちも分かった。
園の言っていた理由ももちろんあるだろうが、せっかくひとりになれたのに、今まで住んでいた部屋より部屋数が少なくなるのだ。どうせ、家賃などここと里とで大して違いはない。
同じお金払うのも馬鹿らしいであろう。
さて。どちらだろう。
ひとりならば、どちらも適当に使うか。それか、どちらかは使わないか。どの道、何かは持ち帰らなければならない。華英はキッチンを通り過ぎ、正面の扉を開けることにした。
スマホを手に持ち、画面の光を扉に翳してみたが特に名前など見当たらなかった。当たり前だ。京極はひとりで使用している。
行動に無駄が多いなとやってから気付く。
「開けるよ」
「うん」




