第十一章 罪の犯し方2
生徒会室。
テーブルの下には誰も潜んでいない生徒会室。元校長机には園が偉そうに座り、ソファには向かい合わせで華英とまりあが座っている。
「風呂はけっこう長風呂っす。これは京極がだらだら話しているからっすね。ただ、その時々で風呂にいる奴と喋るっつぅ感じで、時間はまちまちっすよ。長くて一時間。短くても三十分は確実に超えます」
「ふーん。見られてない? 大丈夫? 社交的だって話なんでしょう? 話しかけられたり」
「今んとこ。最初はじろじろ見られたんすけど――ああ、これは京極じゃなくて他の奴らにですけど――それも初っ端だけ。次の日からはもう」
「ふーん。気をつけてね」
「はい。ああ見えてけっこう几帳面っすね。脱いだ服はそのままにせず、きちんと畳んでから風呂に入ります」
「ううん」
「気をつけなきゃいけないのは脱衣所の人の出入りがめっちゃ激しいことっすね。大学は外部入学も増えるとかでそこは仕方ないんでしょうが。見られたらおしまいっす」
「うぅーんー?」
「どうかしたの?」
園が悩ましげな声を上げていたので、華英は訊いた。
「そっかって思って。あたし、左腕からのアイディアを聞いた時にね? じゃあ隣合わせで上下左右どこかのロッカーにあらかじめ陣取っておいて、お風呂から出る時にロッカー間違えて後で気付いて服着替え直して、その時に鍵紛れちゃったんだと思う~――とか、まあ、こういう路線でいこうかな? って考えてたんだけど……。考えてみたらさ。大学生って制服じゃないじゃない。体操服も思い思いの着ているよね。間違えようがないなって」
長々話していて、一体何を心配しているんだか分からない華英だったが、やがて、
「ああー? 見られた際、気付かれた際の言い訳ってこと?」
と、腑に落ちてきた。
京極は市販品の、どこにでもありそうなジャージを着用していた。では同じジャージを着ればいいのかというとそうではないだろう。逆に目立ってしまう。注目される。
「部屋の鍵盗むにしても、もし周りの誰かに見られて、京極に報告されたら終わりだし」
①京極が大浴場へとやって来る。
②まりあが大浴場から出る。
③すきを見て京極のロッカーから鍵を盗む。
④華英、園に鍵を渡し、まりあが着替え、ドライヤーで髪乾かす等時間を潰している間、華英と園が京極の部屋へ侵入し、証拠を抑える。
⑤まりあに鍵を渡す。
⑥まりあが京極に鍵を返却。
この流れが難しいと言っているのだ。③か④で詰まった時点で作戦は終了。
「って、考えてみたら隣合わせの時点で無理くない? 京極は後から風呂に来るんだし」
「あっ! 確かに!」
園が叫び、頭を抱えた。
片手でやると、頭痛に悩んでいる人みたいだなと華英は思い、窓の外を見た。雲の流れは穏やかだった。気持ちも、雲同様のほほんとしている。
「そうだ。菅原先輩に協力仰ぐのは? それか北条。ふたりとも脅されてるんでしょ?」
「……やろうとしていることがやろうとしていることだから、なるべくなら知ってる人は少ない方がいい。人が増えるとその分ロスも増える。ていうか、両方とも面割れてるし」
こういう時、もし実家だったらと考えてしまう。なるほど場所を人数で抑えたり、人をその場に釘付けにしておく、くらいの頭数が居た方が楽は楽なのか。
無視し、無茶やってもいいが、相手は中国五大マフィアと絡みがある人物なのだ。余裕をこいて適当に作戦を実行し、後々で痛い目を見るのは避けたい。
「てかさ。わたしたちに鍵渡す時点でどうするんだろうね。この作戦。自分から言っておいて今更なんだけどさ」
左腕は半笑いで頭に語り掛けた。
片手で頭を抑えたまま眉間に皺寄せた園は、「現状、出ている課題を全部潰していきましょう」と、苦しげに呟いた。
頭痛の種は窃盗と不法侵入の上手いやり方だ。
果たしてこれが、本当に誰かの助けになるのかと華英は肩を竦めた。




