第十章 菅原未知周辺4
「ああ、そうそう。菅原さん」
ある日、未知は教師から呼び止められた。困っているとも眠いとも取れない表情で、その教師はいつもそんな顔をしていたものだから未知は気にしなかった。
「ああいうの困るんだけど」
「ああいうの?」
聞けば、寮費を振り込む際、半年分、一年分先払いという制度はあるものの、中途半端に四ヶ月分振り込みだとかをされると困るという。曰く、計算が大変だから。皆が皆、そうやっていたら計算する人が大変でしょう?
と、案に自分の大変さをアピールしていた。
最もだ。と、未知は思った。
「菅原さんはこの前滞納分直接払ってくれたばかりで、それからまた一気に四ヶ月分振り込みきたでしょう? もう何がなにやらで」
注意、というより独り言か愚痴みたいに聞こえた。
「とにかくね。ズレも出ちゃって大変だから菅原さんの口からお父さんかお母さんに一言言っておいて」
用は済んだとばかりに仕事に戻る教師を横で突っ立ちながら見、未知の内心は、後悔、どうしよう、こんなの大したことじゃないという想いとがせめぎ合っていた。
ちなみに、父は本当に忘れていただけのようで、後日何の前触れもなく振り込まれた。学校側は催促が面倒で、数ヶ月ぶん前払いしたと解釈したようだ。こうして直接呼び出され、定期的に払ってくださいと言われた時にはもう後の祭りだった。
以降、菅原未知の寮費は丸々四ヶ月分のズレが生じることとなり、その度、月末に思い出したみたいに教師から口頭で軽く小言を吐かれることとなる。三年の四月には保護者を混じえての三者面談も控えていたのだが、寮費については特に触れられなかった。
ズレの生じている四ヶ月分を戻して貰えばいいんじゃないかというアイディアが閃いたが、提案することそれ自体が、何か別の疑惑や問題の引き金になりそうな気がしたのでやめた。
部活の掛け持ちを始めた。
気が紛れると思ったからだ。
菅原未知の心には大きな穴が空いた。
菅原未知の心には小さな無数の棘が刺さっている。
誰にも吐き出せない気持ちを抱えたまま、菅原未知の視野はどんどんと狭まっていき、それを待っていたみたいに、菅原未知のレベルは上がっていく。
レベル一、
レベル二、
レベル三……、




