第九章 らくだ2
その顔は、想像していたよりよっぽど面倒なものが出てきたとでも云うような顔だった。
そっちかあ。と、華英はこめかみを揉む。
質の悪い脱法ハーブ。その時点で察するべきだったか。
脱法ハーブは主に中国で大量に作られている。関東で台東する中国マフィアが最近問題になってきている事情はなんとなく知っていた。
それは、横にいるこの子の親がそっちと繋がりがあるから。たった今し方も向こうでドンパチやっているのだ。敵対している組のニュースは自然耳に入る。
「白蛇は中国5大マフィアのひとつ。やってることはドラッグ売買人身売買武器売買」
想えば、以前起きたという、集団食中毒事件。モルヒネで意識障害?素人の処方とはいえ治療薬であるモルヒネで――と、聞いた時思ったものだが、それが脱法ハーブなら納得がいく。妙な化合物足した質の悪いハーブならそういうこともあろう。
「家のお得意さん」
気を重くしたふたりに、「こうして考えていても埒が明きませんね。一旦風呂でも入りますかい」と明るく笑ってみせたのはまりあで、華英は、この金髪は本気で馬鹿か空気読めないんだなあとむしろ感心すらした。
華英ですら提案しようと思わない。
どころか発想すら浮かんでこない。
まりあの指しているのは間違いなく大浴場のことで、そこに今からみんなで入りに行こうと云っているのだろう。
何に影響されているんだか知らないが、裸の付き合いとやらがしたいのだ。いや、華英は良い。問題は園だ。
存在は認識していたふたりだが、どちらも今まで大浴場を使おうとは言い出さなかった。
理由として、華英は大浴場というものにあまり魅力を感じない……というより、実家の風呂がなまじ大きく設備も豪華で景色もそこそこな為、たまに温泉銭湯に足を運んでもがっかりすることの方が多い――、園に至ってはわざわざ云わずともその理由は伺い知れよう。
だから、
「そうね」
と、軽く返事した時は「えっ!」と驚き言ってしまっていた。
園が柳眉を逆立てまくし立てる。
「何。文句あるの。あたしは大浴場使っちゃいけないわけ。修学旅行でもそうだった。先生も皆も友里園ちゃんはどうする?とかなんとかさり気ない、気を使ってない風をこれでもかってくらい装って言ってくる。どうする?部屋のお風呂も使えるけど?ってね。腹立つ。正面から言えばいいのに。いない方がこっちも気使わなくて済むからって」
「えっ、なんで怒ってるんですか親父」
「分かったよ行くよ」
今後も、毎度こっちが聞いてもいないエピソード混じえて怒ってくるのだろうか、と華英は園の元同級生たちに同情した。
不満そうなあひる口も手伝って、ハリネズミみたいな子だなあと華英は思った。




