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第九章 らくだ

「二個上じゃねーか」

「さーせん」

「学年で言えや。学年で」

「さーせ。さーせ」

 それは謝っているのだろうか。肩を竦めて首を竦めて顎を突き出す様は、舐めているか挑発しているかのどちらかにしか見えない。


 生徒会室。


 座らずに突っ立つ龍玄に向かって華英は云う。愚痴るように。

「菅原未知。みーちゃんっていうから頭には一瞬過ったけど、いっこ上っていうし違うって思うじゃん? 早生まれなら早生まれって言ってよ。普通、いっこ上ってここで言われたら、一学年上を差すでしょ違う?」

 華英はこれ見よがしにテーブルを指した。

「させ。させ」

 最早ふざけているんじゃないかとすら思うが、華英はべつに怒っているわけではないのだ。苛ついているだけだ。それを龍玄に当たっているだけ。

 自覚し、頭を掻いた。

「ちっ。ああー。むかつく。死ねばいいのに」

「ならば介錯をば頼んますか姉さん」

「カッターでいい?」

「それで骨は切れんでしょう。ならば命より大事なこの髷を持ってそれに代えさせて頂きとうございます。よろしいですか」

「へ~い」

「いい加減にしてくれる?」

 カッターちきちき鳴らして二人で遊んでふざけていたら流石にツッコまれた。華英も一緒に肩竦め「させさせ」やりながら会長に向き直る。

 髷という名のポニーを離した。

 華英は両腕を広げる。

「でもムカつかない!? 意味分かんないんだけど!! 弱気な子に優しく近づいてって誑かして個人情報抜いて、今度は金に困ってそうな奴に目ぇ付けて体売らせて徐々に慣れさせていって最後には薬漬けにしてハメて抜けられないように――って!! 同じ人間のやること!?」

「実家でやってることでしょう?」

「わたしの見ている前ではやらない」

 園はそんな線引でいいのかという顔をしている。まあ、やっているだろう。やっているが今それを言ったところで始まらない。

「近いところでやられるとムカつくのっ!」

「実家だって近いんじゃ……」という園の呟きを無視し、龍玄に向く。龍玄は入り口に突っ立っている。いらいらするから座れと促した。「はい」と丁寧に一礼し、ピンと背筋を伸ばしてソファにつく。

「あんた……まりあが高校見てたのって」

「タツでいいです。姉さん」

「いや、まりあでいいわ。タツとか実家に居すぎて分かんなくなるから」

 しょんぼり肩を下ろすまりあ。タツという響きに思い入れがあったらしい。だいたい、龍玄をタツは無理があるだろうと思う。

 んなことはどうでもいい。

「はい。なかなかみーちゃん見つからなくってうちの勘違いかと今度は高校の方見てました。三年はないだろーと思ってさっと通り過ぎただけでした。不覚」

「本当に馬鹿なんだ」

 園が感心するように言った。なんでも口にする子だと華英は腕を組む。

 窓に近付いた。ここからでは位置が高すぎて校庭は見えない。京極は今日来ているのだろうか。向こう側へと目を向ければ山々が見えるだけ。杉。大学は反対側だ。

「県知事の娘? マジで? 本当にそれだけ?」

 この二週間、疲れ切っていてあまり熱心には見ていないが、それでも県知事の情報をスマホ片手にベッドで眺めたりはした。結果、これといって特に面白いものは見当たらず。

 政治家なんてどいつもこいつも怪しく見える、と実家で見たことある政治家たちを思い出した。

 まりあを見やる。

 ばか真面目な顔で前を向いているが、ほんの十数分前まで静かに泣いていたのだ。先程は大分回復した方。そりゃあ泣く。幼い頃唯一優しくしてくれた人が、売りに薬など。……いや、そうと決まったわけではない。前者はともかく後者はまだ。

 龍神会、及びコーポレーション龍玄についても合わせて調べてみた。これについては実家を使った。たっちゃん――華英の世話役。壮年の、以前華英が助けた男である。元々の階級はかなり高かったが、問題を起こしてからは華英の世話役を甘んじて受け入れている。




 たっちゃんは云った。

「階堂の傘下の……その階堂が今はありませんからね」

 階堂。昔、幼少期聞いた名だ。やくざの世界も今は厳しい。

「龍神会なんて名前だけですよ。車の方は好調のようです。ただ、これは従業員の力で龍神の力ではないでしょうね。従業員の持っていたパイプ……その従業員だってほぼベトナム人です。風俗についてはそちらの地域、そもそも風俗がほぼないですから。ひとつふたつデリヘルがあるくらいで」


 だ、そうだ。


 従業員数8名の小さな会社らしい。

 要するに、まりあはただの、元やくざのおじいちゃん子、らしい。

 家がだいぶ前にやくざ業もやっていた、というような。デリへルはデリヘル。風俗業の元締めも何も、まりあの言い方の問題だ。経営しているならそれは元締めで間違いなかろう。

「華英ちゃん」

「なにー。たっちゃん」

「あまり、無茶な真似は」

 全てを聞くことなく華英は電話を切った。秒で鬼電があった為、普通に謝った。たっちゃんは尚、心配そうにしていた。




「それで? そっちは?」

 華英が聞く。

 華英が筋肉痛に苛まれている間に園は何も遊んでいたわけではない。ちゃんと頭を働かせていた。それも始めの方こそ見ていたが、後の方はもう本当にしんどくって部屋で死んでたから華英は知らない。

「白蛇」

「らくだ?」

「ち、が、う。白い蛇って書いてはくだ。聞いたことない?」

 なかった。その口ぶりから、そっち系の犯罪組織だということは響きから分かるが。

 園は言う。


「チャイニーズマフィア」


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