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第八章 部活荒らし

「やったっ」

 胸元で小さくガッツポーズを決める。けれどわざとらしく大げさに。ちょっとジャンプしてみたりなんかして。女が嫌いそうな女を演じる。こてっと首を傾げて腰に手を当てて、園みたいなあひる口はできないから唇引っ込めにんまり笑う。

 空気がぴりつくのが分かる。

 肌で感じる。

 おろおろする新一年生には心から笑ってみせ、さあ次と云わんばかりに前へ横にとステップを踏む。

 来た。

「しっ」

「サーティ・ラブ」

 弓なりに大きく反った体。ラインぎりぎりで攻めてくるボールを難なく拾い、同じくラインぎりぎりで今度はお返しとばかりに反対側へ。県ベスト8は伊達じゃない。後衛が、これは取れまいというボールを放った。また反対だ。「がんばれっ!」と叫んだがコンビ組んだ一年は届かず。ラケットを掠めることなく、通り過ぎていったボールはライン外へ。

 華英はその場でぴょんぴょん跳ねた。舌打ちが聞こえた。

「フォーティ・ラブ。セット一年」


「ありがとうございました」

 ぺこりとお辞儀した華英の頭上にひしひしと視線が刺さる。ここでやらないなどと言ったらなんと云われるやら分からない。けれど、敢えて云う。体験入部を良いことに。もう部活はここに決めたんだと練習する一年生を差し置いて。

「じゃあ、わたしこれで。また考えてみまーす」

「まじでやらないの?」

「やろうよー。絶対いけるから。ほら一年共も。あ、放課後校内で会ったら引き摺ってきてもいいから」

「あははは……」

 引き攣り笑い浮かべる一年生に内心手を合わせながら、華英はそそくさとテニスコートを後にした。後ろから「くっそ生意気ー」という笑い声が聞こえてきた。



「上下関係厳しい運動部でしょ。集団圧力。強要っていうなら」

 と、云ってみせたのは園だ。

 云わんとすることは伝わる。

 ただでさえ人間関係が面倒な女子校。その中でもさらに独特な空気を放つ運動部。独特というのは何も、『運動部って空気が独特だよね、その部活独自の空気があるっていうかさあ』などという、適当な比喩的表現ではない。

 エスカレーター式という構造上の問題、しかも隣あって学校が存在する大問題……高校大学のOBが気軽に出入り出来るが故の、独特の空気。

 例えばテニス部。女子に人気のテニス部。中学にもあれば、もちろん高校にもある。そして大学にもある。

 横の繋がりがあると踏んだ。そしてそれは正解だった。

 しごきはきつい。後輩にもそれを望む。皆経験したことだから。私達もやったから。伝統を重んじる。先輩の言うことは絶対。有望な一年がいたら逃さない。

 何をするにしても、周囲の空気を読まねばならない。

 強要されたら断れない。

 一度入ったら抜け辛い。

 他。

 運動部以外。

 吹奏楽や合唱は高校にもあるが、大学には存在していなかった。故に今回のケースだと当て嵌まらないと考えた。文化系の部活はどこも少人数で、集団圧力が発生するにはやや弱いと考えたのもあるが、単純に後回しにすることにしたのだ。運動部調査が終わってからでいい。

「しんど」

「まだまだ」

 あれから入り浸っている園の部屋。

 園のベッドに横たわる華英を、片腕じゃマッサージしにくいからという理由で足蹴にする園。

「ああああ~」

 だみ声を放つ華英に向かって園が言う。

「明日はどこだっけ」

「……陸上部」


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