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第七章 お嬢様学校の下層3

 三人で食べた夕食は美味しかった。


「とりあえずなんか食べよ。話はまた明日でいいじゃない」という華英の声で、なんとなし解散の流れになった。というより、華英がそう向けた。

 勢いで受けるべき相談じゃない。

 龍玄は不満そうな表情をのみ込むと、「うちもお腹空いちゃいました。今日はみんなで食堂でも行きますかっ」と元気そうな声をあげた。


 食堂とも学食とも呼ばれるそこは霧ヶ浦女学校敷地内にぽつんと離れ建っている。

 元々は大学構内にあったらしいのだが、入りにくいというクレームが中高生からあり、成長期の女子の健康の事をちゃんと考えているのかという保護者からのクレームも度重なり、仕方なし場所を移動したそうだ。

 場所移動をしても客足は大して変わらなかったという。

 理由として、量が多い、メニューが少ない、加えて、あんまり美味しくない。運動部などには好評なようだが、あまり食い気のない女子はほんのたまにしかやって来ない。

 慣れている者は土日に里へ下りて買い物済ませて、田舎から送られてきた大量の野菜を分け合いっこしながら自炊する。寮生は、分け合いっこする過程で『自炊するのが普通だよね』という同調圧力が出来ていたり。

 その日も空いていた。

 それまで、華英の脳みそはそれをスルーしていた。正面入口ゲート付近にある為、警備員の宿舎か何かかと脳は認識していたらしい。まりあから食堂と聞き、今ここに立つまで、「え。あれ。食堂なんてあったっけ」と、ひとり首を捻っていたくらいだ。

 なんか食べよ、はそのまま何か作って食べよ、の意だった。

 外装は白い箱。門と同一色で看板等は見当たらず。よくよく見れば外に出ている換気扇がこ汚い。内装は大学構内にありそうな食堂といった風。

 白のテーブルに白の椅子が並んでいる。無味乾燥。奥は、終えたばかりと見られる運動部の上級生が机くっつけ、どでかいバッグ傍らにまとめ占領していた為、華英たちは入り口近くに座った。

「これ食ったら今日も大浴場」という何とも色気のない言葉から察するに、運動部、見た目中学二三年生たちは、激しい運動、ここでご飯、風呂沸かすのも掃除するのも面倒臭いから大浴場、という流れを既に確立しつつあるようだ。

 社会人みたいだと笑い合っていた。おっさんみたいだと華英は思った。

 券売機で券を購入し、カウンターに提出する。カウンター向こうはそのまま調理場になっており、おじいさん一人で鍋を振るっている。

 元々、この周辺観光地にあった今はなき、潰れた食堂の料理長なのだという。入り口の警備員も似たようなものだと。恐らく、校長からの受け売りであろう園の話を聞き、これも地元貢献の一つか、と華英はどうでもいいことを思う。

「はいよ」という声の後、十数分で運ばれてくる料理の数々。華英はうどん、園は日替わり定食(その日は生姜焼き)、龍玄はペペロンチーノだった。

「安心して。はぐらかしたりしないから」

「すいません。何卒お願いします。それで答えはいつ頃――」

 豚肉頬張る園に龍玄が申し訳なさげに云う。華英は静かにうどんを啜り始めた。

「引き受けるよ」

 あっさり云った。

「え」

「本当ですか!?」

 龍玄の大声に運動部の視線を背中に感じる。

「だめ? なんかあるの?」

「いいけどね。まあ、胸糞悪いことは確かだから。決断早いねっていうさ。頭がそうするんならわたしは従うよ。左腕だし」

「優しくしてくれた友達なんでしょ? だったら絶対助けないと。それに」

「それに?」

 華英の言葉になんでもなさそうに園は云った。

「放置することも看過することもできるけどね。義理は果たさないと。一度引き受けてしまった以上は」

 目の前の龍玄まりあに対してではない。裏口……口利きしてくれた校長に対しての発言だろう。

「やくざみたい」

「何か言った?」

「いいえ。何も」

「親父! 姉さん! ありがとうございますっ!」

 龍玄が感動に打ち震え園のぺらぺらの左袖を握りしめていた。園は応えず、右手で箸を口へと運んでいる。華英はテーブル越しに揺れる袖をただ眺めながら、ああこういう握手のやり方もあるのかあ、と、うどんを啜った。


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