第六章 龍玄まりあ3
「姉御って呼んでいいすか?」「絶対嫌」「姐さん」「拒否」「姉さん」「あり」「ありなんだ……」「や。わたし末っ子だから姉さん呼びはちょっと来るね」「そう」「さっき両方ともって言ってたけどさ」「ああ有名っすからね。鉄砲玉と、それから隻腕の悪魔は」「ダッ」「ださいって言おうとした?」「言ってない。ボウガン下ろせ」「有名っすよー。相手に敵意を向けられただけで死んだ魚の目して相手を拷問しようとするサイコ女って地元こっちまで名が轟くくらいに」「そんなことして……ないっ!」「なんで一瞬悩んだの?」「ナリがこんなだから昔よくイジメられたの!」「それ知った組の奴らが勝手に相手探し出して脅してたの! あたし何も関わってない!」「信じられる!? 親も一緒によ!?」「むしろ迷惑してたんだから! お陰で余計孤立したっ!」「ああ、生徒会長……つまりは組長ってことっすよね……親父って呼んでいいっすか?」
園が白目を向いた。
そのまま傍らにあるキャラクタもののぬいぐるみを引き寄せると、膝に乗せて抱いた。顎でしゃくられる。意思疎通拒否のサイン&お前が話せのサイン。お安い御用と引き受けた華英は自ら部屋入口下座、わざわざクッション絨毯を避け、フローリングに好き好んで正座する頭のおかしな少女に向き直る。なんでここに来て実家の再現みたいなことしてるんだろうと他人事のように思いながら。
「あんた何者?」
龍玄は「ふっ」と、わざとらしく笑った。
「龍神会って知ってます?」
「知ってる?」
「さあ……」
「コーポレーション龍玄は? ……ああ、そっすよね。知らないっすよね。割と手広くやってるのになあ」
龍玄まりあが語ったところによると、龍神会及びコーポレーション龍玄、とやらは、地元の小さな組のひとつらしい。
基本やっていることは、人材派遣業、ベトナムや東南アジア方面への日本車輸出、地元の風俗界隈の元締め。聞いた限りでは確かに多岐に渡っていた。
龍玄はそこの親父、つまりは組長の孫娘らしい。
「馬鹿だからこの学校入れられたんすけど」
エスカレーターだから流れに乗れば大学まで出れるということだろう。それだと眼前の親父と姉さんまで馬鹿だと云っているようなものだが、龍玄は気付いていない。
「ふったりともひとめ見ただけでピンと来ましたよ! しかも一緒につるんでるからこりゃあ間違いねーって! うちテンション上がっちゃってもう! 本来敵対方のふたりじゃないすか。その裏に壮絶なドラマがあったんだろうなって。うわ聞きてー。マジでなんとかしてお近づきになれねーかな~ってうちずっと考えてたんすよ。あ、手出したのはすいません。小手調べっていうか、噂だけだったらどうしよーかなーって気持ちがあって」
「その割には落ち着きなくって、こっちは話しかけられなかったけどね」
「ドラマなんてない」
華英の相貌は地元じゃ有名だ。
敵方の組にまで伝わっているくらいだ。その組、我藤清新会がこの学校と繋がりがある。恐らくその線だろう。園も含めて、きっとどこかで話の種にでもされたのだ。
「ああー……。それがうちがこの学校入った後のじいちゃんから下されたミッション、あっこにいた理由でもあるんすけど……」
話がようやく本題に入った。華英と園は自然前のめりになる。そんなふたりを見ながら龍玄は、
「話すと複雑なんすよねー」
と、言葉を漏らした。
複雑なこと喋れそうにないけどなこの子、と華英はぼんやり時計を見る。かわいらしいデザインの時計は六時を示していた。「複雑なこと喋れるの?」と園が真顔で訊いた。「ひでえや親父」と龍玄が嘆き、園が半眼で白目を向いた。




