第六章 龍玄まりあ2
分からなかった――は、その後も続いた。
あっちからこっち来てもこっちで襲われていれば来た意味なくなるじゃんと思いながらも分からないなりに対処した。
派手な金髪。
馬鹿っぽい黄み掛かった金髪。
頭の後ろに生えたしっぽが跳ねて踊る。
傍らには園が倒れていて、外灯に照らされたその膝からは血が滲んでいた。
その姿を横目で流し見しながら、華英は両の腕を持ち上げ、繰り返される拳と蹴りをぱしんぱしんと叩いては落としていく。
学校終わり、皆が一斉に帰る時間はとうに過ぎている。しかし、この時間帯、部活終わりの生徒たちが大きめのバッグ片手に帰る時間帯。
華英たちの通う中学前……、ではないとはいえ高校前。デザインの違う白の制服の群れは、いきなり始まった女子同士のストリートファイトを驚きの眼で見つめている。撮影している者までいる。「喧嘩?」「にしては」と、華英と相手――龍玄まりあ――の動きに疑問を持っている。
龍玄まりあ。
半端な気持ちのまま、五分にも満たない帰り道を帰るふたりの前に、龍玄の尻があった。
高校校舎の方を熱心に眺めていて、後ろにいるふたりには気がついていない様子だった。
中学と高校を隔てる曲がりくねったデザインの鉄柵。そこに半身をつっ込む様は、見ようによっては、お付き合いしたばかりの先輩の帰りを待つ少女そのものだった。そこは寮の通り道に当たる。華英は昨日の昼間の件を思い出し、後ろから声掛けた。特に何か意識したわけで無し。何の警戒もなかった。「ねえ」と一言。たったそれだけだ。
龍玄は明らかに華英の姿を認めてから襲いかかってきた。その際弾みで園は倒れた。バランスが悪いというのはどうやら本当だったようだ。
華英は襲われながらも冷静に相手の動きを眺めた。
出した結論は、あんまり上手くない空手。
判断を下した華英は、龍玄が軽く拳を放ったタイミングでその腕を握り、自分の体の側面右に勢い乗せたまま引っ張った。そうしてから龍玄の肩を軽く小突く。バランス崩し転倒した龍玄の真白い新しい制服に土付ける。罪悪感など微塵もない。背中に膝を乗せ、さらに手首を思い切り捻って完成だ。龍玄が「ぅいっ!」と、呻いた。
華英は言う。
「どう落とし前付ける?」
パンパンと制服叩く園が答える。
「とりあえずあたしの部屋連れ込も。そこで、全部吐かせればいいよ」
「御意~」
「なにこれ撮影?」「こっわ」と、周囲がざわめき引いている中、「はいこれ」と、何気なく園から差し出された結束バンドには流石の華英も引いた。
考えるのは自分の役目じゃないな、と思い直し、両の親指を後ろ手に縛った。されるがままで文句も云わず縛られている龍玄の口元はにやにや笑っていた。
園の後に続き部屋に入る。華英の部屋と同じ、廊下に風呂脱衣所キッチンと続き、部屋に至る。扉が前と横にひとつずつ。作りはどこも同じだ。園は迷わず横の扉に入った。そちらが園の部屋ということなんだろう。同室の子は伊集院虎織と書いてあった。
読めない。
「ふぁんしーな部屋だね」
出窓に大小十体程のぬいぐるみが並べられている。部屋の大部分を占めるベッドには大きいのがでんとひとつ。木製の小さなテーブル東西南に座布団と一緒にぬいぐるみが並べられているのはかわいいより恐怖心が勝る。
「わ~なんか全部見たことあるっす。これとこれ。あ、これも。もしかしなくてもプライズっすか?」
「UFOキャッチャーは片手で出来るから……。好き……」
「ああ、はい。そうっすね。へえ。へーーー」
まりあは園が掴みきれないようだ。教室では外交的で明るいキャラクターを演じている為、戸惑っているのだろう。
「とりあえずコレどうする?」
「そこ転がして」
「りょ」
あっさりベッドに転がる龍玄まりあ。でかいくまのぬいぐるみと中学生に上がったばかりの背伸び気味な少女の組み合わせ。龍玄のにやにや笑いもそこまでだった。園がくまの背中のチャックを開け、布生地からボウガン取り出した瞬間には、思わず華英まで一緒になって「ちょいちょいちょいっ!」と叫ばざるを得なかったから。
「それ最近違法になったんだよ!?」
「そうなの? なんかこれなら大丈夫だからって護身用に持たされたんだけど……」
「そういう問題じゃないっすよ!!」
ふたりは暫しお互い視線を見合わせた。
園がボウガンを構える。
ちなみに矢はつがえてあった。無論、セーフティはされてある。咄嗟の場合の処置だろう。片手だと、矢をつがえるのに苦労するとか、そういう。
そんなもんと一緒に寝るなと華英は思う。
やっぱでいいじゃん、とも。
「じゃ、どういう問題なの?」
「拳銃ないの?」
「とりあえず全部喋るっすから! それ置いてください!」
再びくまを漁り出した園から距離取って龍玄は叫んだ。
結束バンドを解かれた龍玄は「やべえ。本物だ。両方とも」と額の汗を拭った。




