第五章 怪しい人たち4
「結論。自撮りね、これ」
到着し扉をばたんと閉めるなり園は言った。
「そもそも位置が近すぎるの、この写真。上半身のみ写っていてこの距離となると、左腕が見てきたように306と307の間、それも306号室寄りで撮らなきゃこうはならないでしょ? 向こうの部屋や廊下からズームで撮るにしたって、同じ二年生がそんな危険冒してこんな隠し撮りしなくたって写真なんか幾らでも手に入るでしょう。油断した際どい写真が撮りたいっていうのともちょっと違う。普段の日常の写真でしょ、これ。高機能のカメラ使えばってことにも場所が悪いっていうし。ズームって使われたらある程度分かるもんね。この写真からはそれを感じない。不鮮明で荒くて汚い。隠し撮りって言われれば確かに納得のする写真。先輩のスマホ、けっこう古かったから。あれで自撮りしたらちょうどこんな感じになると思う。自撮り棒とか使ってさ。だから上半身だけ写ってて左側は画面外に出てる。スマホ持ってるのね、これ。下を映さなかったのは影が入り込むのを防ぐ為か……」
「そうとは限らなくない? 8か9か、それかそこに遊び来てた人がさっと撮ってさっと引っ込んだのかも。他にすれ違い様、89訪ねる振りして外で立ってるか待ってた。先輩は内心で犯人気付いていても怖くて言えなかったとか」
菅原の言葉の引用。意地悪のつもりで言った華英の言葉にも難なく園は返す。
「気付くでしょ、普通。人間の視野角って一八〇度から二〇〇度あるし。まあそこまでいくと薄らぼんやり見える程度だから気付かなかった気付けなかった。先輩もぼーっとしていた。とも言える。それと……」
「うん?」
言いにくそうにしていた為、促した。
「ほら、あの先輩。写真撮るなら、もっと……」
「あ。ああ~。被写体にするならもっと綺麗でかわいい人いるもんね。この学校」
「う、ううん。言ってる事を考慮してあげてもね? それでも先輩には怪しいところがある」
園が言い淀んだ。
何を言いにくそうにしているのか華英には分からない。
「怪しいところ?」
むしろ怪しいところしかないような人だが。
「あの時、先輩どっから入ってきた?」
「どっから?」
ぐるりと生徒会室を見渡す。
園の言葉はそれまでと違い、緊張を帯びている。
「ここの扉。入る時出る時必ず音鳴るでしょ? ぎい、がちゃ、ばたん、って。教室の扉じゃなし出入りする人なんてあたしたち以外いないんだから。開けっ放しにする人はいない。北条先輩が現れた時、扉は閉まってた。あたしも見てる。騒いでいたけど入ってきて気が付かないなんてことはない。それでも先輩はいた。突然現れたように見えた。
どこからいたの? いつからいたの?」
確かに。言われてみれば、ここの観音開きの扉は音がでかい。左右どちらの扉を開くにしたって、ぎい。がちゃ。ばたん。と、大きな音がその度鳴る。鳴っていた。思い出してみればであるが。
「どこから……?」
あの時は――、と想い馳せた。大した話はしていなかったはず。
聞かれて困ることは、いいや、確か裏口入学の話、それに代わる条件として生徒会を提示されたとまで話していたはず。親――ヤクザにも言及していたか? とにかく。そのタイミングで北条は出てきたのだった。
「……最初からいた?」
「左腕掃除してたでしょ」
そうだ。テーブル、隅に溜まった埃。書類の整理までは及ばなかったがある程度部屋の細部は確認していた。一人の人間が出入り出来る空間を見逃すなんてことがあるだろうか――と、部屋を見回したその時、
がつんっ!
と――、扉の開閉とはまるで違った音がした。
二人で顔を見合わせる。
その正体……
「そう。こんな感じに。二人の立ち位置からある程度向きは分かる。だから、こう、ソファの間を縫っていって、タイミング見計らってからぬって出るの。ああ、出る時もちゃんと視線を予測していってね。消えるフェイントって知ってる? 知らない? そう、嘆かわしいわ。さっといってさっと喋り始めるのがコツよ。相手に質問はさせないよう。すると、きょとんとしつつも相手は私の話に耳傾けざるを得なくなる。コツ。コツがいるのね」
ぼさぼさした頭。
埃っぽい、皺の寄った制服。
猫背で俯きがちで不健康そうで――そして今、頭を抑えている。
そう、その全てに理由があった。
らしい。
埃っぽい、掃除が及んでいない場所、どころか、棚のやそこかしこに溜まっていた埃を華英が下に払い落としていたその中途に、中途半端に掃除が進行中だったそこに、よりにもよってそんな埃っぽいテーブルの下に長時間身を屈めていたらそんな姿勢にもなるだろう。
「台無しっすよ、先輩」
匍匐前進、中腰、ひょこひょこと身を屈め、自分で言った通り、ぬっと登場した北条時子に園と華英は再び毒気を抜かれた。




