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第五章 怪しい人たち3

「くっくっく……」

 と、喉を鳴らすような独特な笑い声を漏らし、「時子にそう言われたの? 君は? ああそう。いいよ。入りな」と、華英を部屋へと導き入れた。

「おじゃましま~す」

 ユーモアの分かる人だった。

 華英としては、まぐれ当たりで犯人だったららっきーくらいの浅い考えがあった。それか、鼻白み、不機嫌になられた方が却って情報を引き出しやすい。実家で覚えた知識だ。とりあえず言いがかりを付ける。考えるのはその後でいい。引き出した言葉から当たりを付けていけばいいのだ。

 寮はどこも同じつくりだ。

 一直線に伸びた廊下に、トイレ、風呂脱衣所、ダイニングへと続く扉があり、奥にさらに二部屋ある。一人一部屋。ネームプレートのもうひとりは大神てるとあった。

「わ。写真がいっぱい。人物は撮らないんですねー。へー。へー」

「風景撮る方が好きなんだ」

 揺さぶりも軽く流される。

 菅原は華英の隣に立ち、顎に手をやっている。

 八畳の部屋。壁の四方に写真が飾ってあった。どれも額縁に収められていて、学校のどこかで見た景色もあるが、見覚えのない場所もあった。テレビなどで見た鳥居や庭園などもある。ベッドサイドテーブルには今朝見た一眼レフ。傍らにはアップル製のデスクトップ。

 絵に描いたような写真家の部屋だった。椅子は恐らくハーマンミラーのアーロンチェア。

「どうして犯人が私だと?」

 華英は内心はしゃいで椅子に腰を下ろした。座り心地を確かめる暇もなく、菅原が訊いてくる。

 改めて菅原を見やる。

 ショートカットで霧ヶ浦の制服を着用している。

 制服がなかったら男に間違われそうだ。人気の理由が伺えた。

「その、先輩の立派なレンズで、あのへんにあった木に登ってこっそりと」

 半笑いであからさまに冗談混じりで言うと菅原は笑みを深くした。

「杉は無理かなあ……とっかかりないし。ちゃんと見たことある? 杉って上に向かってまっすぐ伸びるんだよ。下の方は枝も葉もないんだ。高くなる過程でいらなくなるんだろうね。下の方は陽の光を浴びないから」

「あーなるほど光合成。理科で習いました」

「それに、学校周りのはちゃんと剪定されている。時折業者が入ってるよ」

 部屋を見渡すと、杉を下から撮った写真があった。

 樹木の偉大さを表すかのような構図。華英は見ているだけで鼻がむずむずする。軽度の花粉症である。

「桜なら?」

「桜ならいけるかも。まあ、このへん桜は校門前にしか生えてないけど」

「これ、先輩どう思います?」

 スマホを差し出した。画面には貰った写真を出している。

 身を乗り出しスマホを受け取ると、菅原はまた独特の笑いを漏らした。おかしさを隠そうとしない。

「これ、なんて?」

「北条先輩が盗撮だって言うから調べてます」

 そのまんま言った。

 華英は相手が受ける影響などあまり考えない。これを言うことで北条が受ける影響など、頭をカスりはするが、そういうものや雰囲気に対する配慮の意識は基本的に欠けている。

 先程園に言った、「悟られないようにね」も、バレたら面倒臭いから気をつけて、ぐらいの意味合いだった。相手が傷つくからなどという心がけはこれっぽっちもない。

「盗撮ね。私の部屋や、お隣の雄志さん満上さんの部屋の扉開けてなら撮れるかも。あとは通路をすれ違い様に撮るっていうのが一番かな。この写真に近い状態だと」

 お隣とは309号室のことだろう。自らの容疑が深まる可能性を真面目に検討している。

「気付かれると思いますけど。ていうか、同じ三年が盗撮する意味がわからないです。わざわざ隠し撮りしなくてもこんな写真、幾らでも手に入りそうなものなのに」

「そこまで分かっているなら話は早いよ。もう少しちゃんと写真を見てみることをおすすめするよ。それから相手の意図や行動をよく読むこと。相手のことを考えてあげることも」

 身を乗り出し、スマホを受け取った。画面はオフにされていたが、改めて今確認しようとはならなかった。

 退出する際、菅原は言った。

「お金持ちがお金持ち相手にすることって何だと思う?」

 華英が入ってから出るまで、菅原は顔に笑みを貼り付けていた。




「犯人分かったわ」

 翌日、登校するなり園が言ってきた。昨日の報告する前に切り出されたので鼻白む華英だったが、一応報告した。園は、

「そう。その先輩は怪しいけど、一物あるんでしょうね、彼女。……ああ、その写真部の先輩じゃなくて北条先輩ね? とりあえず放課後生徒会室で」

 と言い、その言い分に、下は上の考えなど読めずにただ命令に従うのみなんだなあ、と、自身の今の立場と実家の下っ端たちの姿を一日思い浮かべたりした。


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