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第五章 怪しい人たち

「いただきます!」

「いただきます!」


 本日の当番、龍玄(りゅうげん)まりあの元気の良い言葉により気持ちよく給食は開始される。カチャカチャカチャカチャ箸と器が鳴る音と口々に会話交わす音が交じる。

 どこであっても変わらない。給食があったら「いただきます」の挨拶は必ずあるもの。どうして元気の良い挨拶って子供っぽく感じるんだろう、と、華英は思いながらお盆に並べられた色とりどりの給食を見下ろしている。

「白い制服にカレーって絶望的だよね」

「察しの良い何人かは運動着に着替えてる。あたしは着替える方が大変だから止めたけど」

「何で体育もないのにって思ってたけどそういうこと……。皆に言ってくれればいいのに。なんかあったね。カレーに混ぜられる、アレ」

「言うな。うう。食べたくない。幻覚見えたらどうしよう」

「大丈夫だよ。モルヒネは痛みを抑制する鎮痛作用効果だから。大麻だったら……どっちかと言うとやっぱりリラックス効果だよね。幻覚だったら他にもっと強力なのがあるよ」

「そういうこと云いたいんじゃ…………何で詳しいの?」

「昔さ。教えられて」

「えっ」

「やってないけどね。ちょおっとお家で騒動起こった時に神谷さん――仲良いおじさんに教わる機会があって。へえ~、わたしも楽しい気分になるんならMDMAとかやってみた~い――って、冗談混じりに親父の前で言ったらぶん殴られたわ。痛みと共にいつまでも刻まれてる知識」

「馬鹿みたい」

 カレー見下ろしいつまでも手を付けない二人に向かって挨拶をし終えた龍玄まりあが言う。

「いらないんすか? 貰っていいすか?」

「よかない」

「いいわけないでしょ」

 カレーを貰っていいわけがない。

 昨日の今日話を聞いたばかりでびびっているだけだ。

 華英だって人の子である。びびる時はびびるし、げんなりする時はげんなりする。

 違和感を覚える。

 ちらちらと目に付く目の前の金髪に、ではない。

 龍玄まりあ。

 厳しい親元離れ、はめ外す子はいる。龍玄まりあはその筆頭だった。

 入学式から二日目、黒髪から金髪にいきなりしてきたのがこの龍玄まりあだった。以前の学校では禁止だったのだろうと察した。

 へらへらした笑顔を顔に張り付かせ、実際どうでもいい話でけらけら笑う。傍から見ていても人一倍リアクションが大きいのがいる。やかましいな。一体誰だと目をやれば龍玄まりあがいる。

 行動から見た目から雰囲気から話し方から軽そうだった。

 そしてこういう軽そうな輩に、華英は慣れていた。クラスの中には金髪ってだけでびびっているのもいるが。

「どうして敬語? 他の子には普通に話してなかった?」

「そりゃもう憧れの鉄砲玉が目の前にいるとなりゃあ敬語にもなりますよ」

「ぶっ!」

「わあっ。大丈夫すか!?」

「……何やってるの」

 噎せてカレーを吹き出した。白の真新しい制服にカレーが付く。幸い周囲には掛からなかったようだが、何事かとざわついている。横からティッシュとんとんとん。片腕で器用に給食食べていた園に介護されている自分は果たして彼女の左腕たり得ているか。彼女の子供の間違いではないか。自分で地雷を設置して自分で踏み抜いた気分だった。

「言った?」

 とんとんされたまま訊いた。園は「言うわけないでしょ」とチラリと龍玄を見やり席を立つと、「ハンカチに水染み込ませくる」と出て行った。色々どうしようと頭に過ぎり、とりあえず食べた後着替えようと結論を出した。冷めたカレーより熱々のカレーだ。華英は物事に頓着しないと同時に、そもそも世話されることに殊更後ろめたさがない。家柄、それが当たり前だと思っている節がある。

「とりあえず食べましょうよ」

 どうして自分で思ったことを、そのまんま相手に云われると無性に腹が立つのだろう。

 クールになれ自分、と念じ、こういう時に大麻でもあったら、と半ばやけくそで思った。

 流石の鉄砲玉も自爆にはどうにもならない。


 困ったことに龍玄まりあは捕まらなかった。

 給食食べた後の昼休み。配膳の当番でもあった彼女は、教室を出て行くと授業始まるぎりぎりまで帰ってこなかった。やきもきしたまま放課後まで至り、結局どこかへと走り去って行った。急いでいるようだ。

「あいつ部活は?」

「入ってないはず」

 四時ともなれば、霧は出ていない。校庭をつっきり大学校舎、或いは高校校舎の方へ。この時期に知り合い? と、なれば地元の子ということだろうか?

「今日寮訪ねてもいいけど部屋知らないな……って、地元だったら家から通ってる可能性もあるんだ……。とりあえずデータ? 校長から貰ったっていうの。あの子の分ある?」

 何せ場所が場所だ。大抵は寮に入っている。ここまであまりクラスで打ち解けていない華英は、その例外を知らない。故に染色という彼女の行動と、家を出、寮生活をどこか結びつけて考えている。

「あるはず。調べてみる」

 生徒会の活動を始めるに当たって、ほんのちょっとした活動資金予算、この学校の各生徒のデータが入ったファイルを貰ってあるらしい。それってどうなの良いの? と、思わないでもなかったが、口に出すことなく便利に使うことにした。

 裏口なんかやる学校だ。どうせろくなものではない。

「よろしく」

 ベランダから教室へと戻った。しこりは残ったが、まずは頼まれたことに当たらねばならない。順序良くいこうと意識する。





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