最期に笑えるように
ーーもって半年。
病気が発覚して以来、年々病状が悪化していくのを感じていた。
だからだろうか……
医者から余命宣告を受けて感じたのは、怒りや悲しみではなく、安堵だった。
長い闘病生活もーー
自分では断てなかった命もーー
優しく笑う両親を見るのもーー
全部、終わりにできる。
そう思ったら、身体が動く内にもう一度外の世界を見たくなった私は、たった1枚だけ持っていた普段着に着替え、看護師達の目を盗んで病院を抜け出した。
目的地があった訳じゃない。
見覚えある場所を適当に歩いて回った。
幸い、売店で好きな物を買えるように、と両親が度々くれたお金を取ってあったから、所持金はそれなりにある。
思いきって電車にでも乗ってみようかーー
そう思った時だった。
「か、金をよこせ! そしたら命は助けてやる!」
人通りの少ない道だったのが悪かったのか、震える手で握ったカッターナイフを突き付けながら若い男が声を上げる。
悲鳴は上げなかった。
切羽詰まった様な表情を浮かべる男の腕に巻かれた、私のと同じ白いビニールバンドが見えたから。
だからーー
「いいよ。 でも、その代わりーー」
彼が後どれくらいかはわからないけど、残りの時間くらい、自分がやりたい事をーー