夏の鎌倉 【月夜譚No.306】
夏の鎌倉は暑い。京都のように盆地というわけでもないのだが、他の町よりも暑いように感じる。
そもそも、緑が繁って寺社仏閣が多い地域というのは、特別気温が高いように思う。蝉の声があちこちから響いているから、耳から入る印象が暑さの体感を助長させているのだろうか。
青年はあまりの暑さに足許をふらつかせながら、大きな木の幹に作られた小さい祠の前にある岩に腰かけた。風が通るそこは涼しく、生き返るような心持ちで帽子を脱いだ。ちらつく木洩れ日をぼんやりと見ながら、帽子を団扇代わりに扇ぐ。
ふっと正面を見ると、そこに少女が立っていた。涼やかな水色のワンピースに大きめの麦わら帽子を被って、表情は見えない。
丁度木陰から一歩出たところに立っている。どうして陰に入らないのだろうと不思議に思っていると、瞬間的に突風が吹いて青年は目を瞑った。
そして次に目を開けると、最初からそこには何もいなかったように少女の姿が掻き消えていた。
青年は寒さを覚えて身震いし、そそくさとその場を後にした。
鎌倉は、様々な想いが凝る場所。それ等が集まって熱を放っているのかもしれない。