プロローグ 剣鬼
最新の流行を追う女子高生という生き物を知っているだろうか? タピオカ、ルーズソックス、インスタ、あらゆる流行は彼女たちから始まった。
流行の先端、其れこそが女子高生。
ここに一人、新しい流行を生み出そうとする女子高生がいた。
彼女は刀を二振り、持っている。手入れの行き届いた刀だ。
そして、女子高生の目線の先に、畜生がいる。
要するにガラの悪い男が、集団で溜まっている。
よくある話だ。所謂ヤンキーというやつだろうか。 警官狩りというやつだ。
冴えなさそうな警官がリンチされている。
「汝、悪漢也か?」
女子高生がその言葉を紡ぐ、現代日本において、あまりにも似つかわしくない、古語といっても差し支えない言葉。
畜生は嗤いながら言葉を吐く
「ようやく女子がこの道に来たぜ、俺らと遊びてぇみてぇだぜ。その態度実にそそるなぁ~。」
畜生は続けて言葉を吐く。
「おもちゃの刀なんて、どこで買ったんだよ。そうかそうか最近流行りのコスプレイヤーかぁ〜〜 輪姦して欲しいんならそう言えよ。」
畜生が下品に笑う。 畜生故か、交尾しか頭にないのだろうか。
そんなものより、悦を感じるものがこの世には沢山あるのにと、女子高生は思考する。
そして、頬が緩む、斬って良いものだと考えたからだ。
「汝、悪漢也」
女子高生はそう一言、言葉をその場に置いた。同時に刀を納刀していた。 次の瞬間には、悪漢らの首はすでに、一人を残して地面に転がっていた。
「切り捨て御免」
実に可憐な声だ。
そしてそれをかき消すように、畜生の情けない悲鳴が聞こえる。
血液が、刀と満月そして女学生を彩る。
畜生は実に情けない声で喚く。
「なんでだ... なんであいつらを殺したんだ... 段平女、最近有名になってるやつだな。
俺たちの組はせいぜい、児童臓器を売り捌いて、政治家を殺いただけの組だぞ。みんなやってる。しかもこいつらは今日も元気に堅気に氷菓子売って、邪魔な警官を恐喝ってただけだぞ!!
死滅れ。死滅れ。段平女」
殺しの現場に相対して、畜生はようやく、漢の顔になった。
同時に、男は拳銃を抜く。 マグナムリボルバーだ。 この町では珍しくないものだ。
女子高生の眉間に弾丸を二発放った、しかし音は一発。
男には、才があった。 才が故に腐った。
早打ちには自身があった。 見切りにも、だが女子高生がいつ刀を抜いたかすらわからなかった。
男には自信があった。畜生だった頃、極道5匹をこの銃で屠った。
ハチの巣だ。
しかし彼は、大海を知らなかった。
だから腐った。
しかしこの町においてはある格言がある。
才鬼、三秒あらば刮目して見よ。
三秒あれば鬼は進化する。
そして進化した。
しかし、弾丸は女子高生に届かず。
一振りで、銃弾を跳ね返し、男の耳をそぎ落した。
「良い貌だ。斬った甲斐があったものだ。 これだからやめられぬ。」
顔が愉悦に染まる。 彼はより良い好敵手になるだろうと思ったのであろう。
男は反社会的勢力との関わりがあったのだろうか、腕に代紋らしきものがみえる。
「小僧。此度は、友人にタピオカ成る物を、頂いた故、貴殿らを切った。次は我が道場で死合おうぞ。ひたぶるに楽しもうぞ。」
女子高生は、畜生の耳を刈り取りながら、そう語る。
「我は、白百合女学園高等部一年、剣道部部長 九牙桜。そして剣鬼である。」
女子高生剣鬼 桜はその言葉をこの場に残し、
そして畜生の耳と男の耳をその手につかみ、刀をもう一度振った、次の瞬間には、その場から消えた。
話は変わる。 この町は特異な街だ。
一つ目は名前である。
東京都江戸区である。 江戸川区ではない。江戸区である。
知らない名前であろう。 それもそのはず。
この町にいるのは、存在しないはずの者たち、
存在しないはずの者たちが存在する町は、表向きは存在しないこととなる。
そして、東京都江戸区のもう一つの名称、裏東京
この町には、現在なくなったとされるもの、ないはずのもの、いてほしくないものが集まる。
具体的には、怪異、侍、忍者、陰陽師、
最近においては極道なんてものも。
存在しないはずの町で起きる。起こりえるはずのない邂逅
その第一幕が今始まる。
第一幕 剣鬼VS極道