9.推しと言えども、ゼロ距離はやめてください。
マティアスは少し嫌そうな顔をしながら、淡々と話し始めた。
「彼女は…幼い頃から活発というか…まぁ、落ち着きがないかな」
「…そうなのですね!」
「うん、とにかくミクとは真反対の性格かもしれないね」
「なるほど…」
(マティアスは活発な女性は苦手なのか…いやでも、シナリオ通りにならないとヤバいんじゃ? マティアスを疑うようで悪いけど、やっぱり姫君に会って、本当にそんな性格なのか見極めなきゃいけないかも…あと、マティアスを好きかどうかも聞かなきゃ…)
「マティアス様、あの、私、青の国の姫君とお会いしたいのですが…」
「え?本気かい?」
「はい、なので…あの、腕を離していただけますか?」
(会いたいって言った瞬間に腕掴んできた…顔、顔怖いですよ?? どうしたん??)
マティアスはミクの右腕をしっかりと左手でつかみながら真顔で「本気?」と何度も呟いている。
「マ、マティアス様はここで待っていてください、ね?」
「ダメだ。一人でなんて行かせられない」
「で、でも…嫌なんですよね?」
「…いや、行く」
(…頑固だな????)
「…分かりました…じゃあ、行きましょうか」
「ちょっと待ってくれ、忘れ物がある」
「え?」
立ち上がってドアへ向かおうとしたミクをマティアスが後ろから抱きしめて顔を引き寄せたらしく、二人の距離は既に0センチになっていた。
ゆっくりと離れたマティアスは困惑しているミクの顔を大事な物を扱うようにやさしく撫でる。
(…折角二人でいるのだから、これくらいは許されるだろう。もっと俺を意識してくれればいいのだが…)
マティアスはミクを撫でながら、今後の事を考える。屋敷以外の景色を見せてあげたいとか、ドレスを買ってあげたいとか、パーティーでミクのパートナーになりたいとか、やりたい事は沢山あるらしい。
マティアスの腕の中で固まっているミクは脳が思考を放棄しているという状況だった。
(…?????????????????????)
「…ハッ!! は、離してください!! もう!!」
「あれ、もういいの? 俺は足りないけどな…」
(この男…顔が良い、供給ありがとう、好きだ…やっぱ、推し強い)
「…いや、落ち着け私」
「…え?」
「なんでもないです! ハハ! もう行きましょう! ね!」
「…うん?」
自室を出て、右にある少し長めの廊下を進むといつもの図書室があり、その先の廊下のつきあたりの扉を開けると、そこは広い客間になっている。今日は多くの人々が客間でゆったりとしたティータイムをしながら、談笑をしていた。
「あら、そうなの? 赤の国は絹織物が有名ですものね!」
「えぇ、クラウディア様も是非お帰りの際にはご覧になってください」
「そうするわ!」
賑やかな客間にミクとマティアスは遂に入室する事になった。ノックをした後、ミクがドアを開けながら声をかける。
「ご歓談中に失礼致します。お父様、こちらにいらっしゃいますか?」
「あぁ、ミク。入りなさい」
「あら! 女の子だわ!」
「お初にお目にかかります。ミク・ミカエリスと申します」
「ふふ、固くならないで? 一緒に紅茶でもいかがかしら?」
「ありがとうございます…あの、もう一人連れているのですが…入室を許可していただけますでしょうか?」
「ええ!いいわ!」
「…ありがとうございます…」
「え!? マティアス様!?」
「マティアス様はどうぞ、姫様のお隣に…」
「…」
(…嫌そうな顔してる、そんな顔しないでください…)
「是非、是非ともお隣に!!!!!!!!!!!!!!!!!」
青の国の姫君「クラウディア」がマティアスを好いているというのは誰もがその態度で分かる程、強烈なものであった。
ミクは父親の隣に座り、使用人が出してくれた少し甘めのストレートティーを飲んだ。少し果実の香りが薫る紅茶は前世からのミクの好みなのだ。転生してからもこうして紅茶が飲めるという幸せは他の何物にも代えがたいだろう。
ミク達にはゆったりとしたティータイムなのだが、クラウディアに引っ付かれているマティアスからすれば地獄の時間だろう。
(マティアスの顔が死んでる~死んでても顔いいから困るね…それにしてもクラウディア様、めっちゃいい人だけどな?
お菓子分けてくれるし、楽しそうにお話される方だし…積極的なのが落ち着けばいけるのでは??)
ミクはお菓子を口に運びながら、「クラウディア様とどこかで二人きりで会えないだろうか?」と考えていた。
「そういえば、ミクさん、三日後は空いているかしら?」
(え!? チャンスだ!!)
「空いています!」
「よかったわ、一緒に街にお買い物行きましょう?」
「喜んで!!」
「…二人で行くのか?」
「あら、マティアス様ったら! ダメですわ! 男子禁制です!」
「そうです! 来ないでください!!!!!! 絶対ですよ!!」
「………分かったよ」
たまたまチャンスが回ってきたミクは無事に姫様とのデートを勝ち取ったのであった。
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