8.ヒロイン苦手って…マジですか??
ミクはゲームの推し(女性キャラ)のサリーの衣装を制作していたのだが、皆さんもお分かりの通り、これまで本当に色々あって、やっと念願の製作再開まで漕ぎつけていた。
現在は自室にて邪魔の入らない幸せな裁縫作業をしている。
(よし…ズボンできた~!!)
「あとは、えーと、ズボンにあるデザインかぁ…」
サリーの服には白の星のデザインがズボンの一部分にだけ入っている為、それをうまく再現したいミクだったが、なかなかいいアイデアが浮かんでこない。
それもそのはず、ここは現代の技術が存在しない世界。
現代人のお供であるパソコンも、熱転写シートのようなものもないし、布に書けそうな油性ペンもない。
「………………………困った!!!!!!!!!!!!!!!!!」
(え、どうしよ、インクで星の形に染めるとか??…いや、でもそんなうまくいく??…むり…うまくいくビジョンが見えないが??)
「ほ、ほかに、何かいい案…………あ、染めるのをやめて……刺繍する?」
(…星の形に刺繍なんてしたことがないけど…)
「やってみるか…レイヤーならやらなきゃいけない時もある…再現度は大事…やらねば!」
ミクは白の糸を針に通して、何となく星の形を思い浮かべながら刺繍を始めた。
転生前はあんなに衣装を作ってきたんだからいけるだろうという過去の経験からの試行というのは案外あてにならない事も多いものだが、今回ばかりは神の助けがあったらしい。
針を等間隔で布に差していく事が出来たおかげで、いつの間にか綺麗な星の形になっていた。
「…待って?綺麗じゃない?……私、天才かもしれない」
自画自賛とはこのことであろう。
ミクは椅子から立ち上がって、出来上がったズボンをベッドに投げる。
ズボンはふわっと広がり、ベッドに横たわった。
ズボンの形を整え、全体をくまなく確認するミクは満足げであった。
「うん、綺麗!完璧!…シャツっぽいの作れば完成ね…あー首が痛い」
ミクはズボンを回収して、しわが付かないように折りたたんでクローゼットの奥へとしまうと、ベッドへとダイブした。
「いったん休憩しよっと…」
(…そろそろ午後では?…あれ、そういえばマティアスはいつ頃来るって言ってたかな?)
「あれ?聞いてなくね?」
「ま、まぁ…帰ってもらうようにヴィヴィアンに頼んであるし…大丈夫でしょ」
(そう、大丈夫大丈夫大丈夫…)
突如ドンという重い音が部屋の外から響く。
そしてすぐに部屋のドアが開かれ、ミクは驚いて寝っ転がっていたベッドから降りて、臨戦態勢に入った。
(不審者!?)
「…やぁ、ミク」
「マ、マティアス様…!?」
ドアを開けてきたのはマティアスだった。
彼は少し汗を流して、息が上がっていた。
服も少し乱れている所を見るに、急いで走ってきたという感じで、慌ててミクはマティアスに近づいた。
「ど、どうなされたのですか?」
「あぁ、休んでいるのにごめんよ。ちょっと匿ってくれないかな?」
「え」
マティアスはすぐにミクの部屋に入り、ドアを閉めた。
「実は、さっき青の国の姫君に会ってしまって…」
「え?」
「…子どもの頃に青の国の姫君に追いかけ回されて以来、彼女の事が苦手でね…それでさっき会ってからもそんな感じだったから、君の部屋に逃げ込んできたんだ」
「え、と…なるほど…」
(ん?????? これはゲーム内容とかなり違うのでは??????
え、あれ、青の国の姫君とくっつくんだよね??????)
ミクは思考を一旦放棄した。
ゲームのストーリー通りなら、18歳になると主人公マティアスは青の国の姫君とパーティーで出会い、色々あってゴールインする(監禁エンドも勿論含めて)はずなのだが、目の前にいるマティアスはもう幼少期に彼女に会っているらしい。
そう、ストーリーから逸脱しているのである。
(…これはどうすればいいの…やっぱりマティアスが彼女とうまくいくように、ストーリー通りになるように促した方がいいよね…まずは青の国の姫君の情報を聞き出そう、うん)
「マティアス様…あの、どうぞ、お座りください」
「あぁ、ありがとう」
とりあえずマティアスをソファに案内し、ミクは反対側に座ろうとした。
しかし、腕を強く後ろに引かれ、倒れ込んでしまった。
(え!? ちょ…)
ミクの腕を掴んで引き寄せたのはもちろんマティアスだった。
「…どうして隣に座らないのかな?」
「…どうしてと言われましても…」
「俺の隣は嫌なのかい?」
「…」
(い、嫌じゃねぇよーーーーーーーーー!!!!!!!! 顔良いな!? むしろご褒美だよ、隣座ったら(私が)死ぬんだよ!!!!)
「なんで答えない? やっぱり嫌なんだ?」
「いいえ、好きです」
「…じゃあ、隣、来てくれないか…?」
「…はい…失礼いたします」
(昨日といい、今日も死にかけなんだけど!?)
「あの、そういえばヴィヴィアンに会いませんでしたか?」
「あぁ、彼女は突然やって来た青の国の姫君に付きっきりだったよ」
「そ、そうなのですね…」
「知らなかったのかい?」
「えぇ、この通り部屋に籠っておりましたので…」
「…君の使用人たちは過保護だな、やはり」
「そうですか?」
「あぁ、君はいつも家にいるし、パーティーも使用人が選別しているだろう? それに、常にこの部屋の近くには3人ほどの使用人が立っているし…」
(もしかして…)
「…それが普通ではないのですか?」
「あぁ、君の年齢なら自分でパーティーを選んで、沢山外へ出かける令嬢が多いはずだ。部屋の守りが固いのもあまり見ないな」
「そうなのですね…」
(…知らなければよかった…まて、違う違う、本題!)
「それはそうと、青の国の姫君とは幼少期からお知り合いなのですね?」
「うん、そうだよ」
「どのような方なのですか?」
「…ミク…彼女に興味があるの?」
(もちろん、この世界のヒロインですし)
「はい」
お読みいただきありがとうございました。
↓今後の励みになりますので、気に入ってくださった方や応援してくださる方は↓
[評価、ブックマーク、いいね]
よろしくお願い致します