10 レディーとデートです!?
そうして時間は過ぎ去り、ミクがバタバタと準備をしている(主に聞きたい事リストと服装)うちに遂に当日になった。
(今日はクラウディア様とおデートだ…。
しかし、用事がなければ自室にこもりっきりのザ・引きこもりみたいな私に朝から外出ができるのかという心配と、女の子とデートなんて初めてだから落ち着かなかったのもあって昨日は全く寝れなかった。
遠足前の眠れない子供かよとツッコミが来そうだ…まぁ、乙女ゲーの世界ではツッコんでくれる人なんていませんがね!!)
ミクは出かける為の着替えを終えると、転生後の人生で初めて玄関から出た。
急に立ち止まったミクの視界にはいっぱいに美しい庭園が広がっていたのだ。
「…これ、我が家の敷地なの?」
「そうでございます。奥様こだわりの庭園ですから、庭師も気を遣っているようですよ」
後ろからヴィヴィアンが微笑んで返答する。
(そうなのか、ただの独り言だったのに疑問に答えてくれてありがとうヴィヴィアン…今、凄い、恥ずかしいです)
「お嬢様」
低い声に振り返ると玄関扉から執事のケンが出てきたらしく、ミクの背後にいつの間にか立っていた。
ケンは188という高身長の若者である。
ミクは毎回彼が部屋に来た時は必ずソファに強引に座らせている。
(え? 執事をなんで座らせてんだって?
決まっているだろう、首が疲れるからだよ!!
あとは、彼がソファに座るとまるで絵みたいになるからだ…流石乙女ゲー、モブすらも絵になる…!! まぁ、そんな事はどうでもいいな、うん)
ハッと我に返ったミクは声をかけてきたのだから何か用事があるはずだと思い、彼に疑問を投げかけた。
「…どうしたの?」
「こちらをお持ちください」
ケンが渡してきたものは宝石のネックレスだった。
「なに、これ?」
「今日は肌身離さず着けていてください、外出という事で旦那様がお嬢様にとご用意されたものです」
「…そう、後でお礼を言いに行くわ…ありがとう」
ミクはすぐにヴィヴィアンにそのネックレスをつけてもらった。
それを見て、ケンは滅多に見せない笑顔を浮かべていた。
「…お美しいです、お嬢様」
(…………ぐっ…なんか、ダメージ…が…)
急にふらつくミクをヴィヴィアンとケンが支えてくれたのだが、ミクは美しい倒れ方ができず、鼻からは血を垂らしていた。
まさに不格好である。
「「お嬢様、お気を確かに!!」」
・ ・ ・
ミクはその後二人に運ばれて、現在は馬車の中にいた。
(ちょっと先程は取り乱しましたわ~ハハハ!!
イケメンのいい笑顔に殺されかけた私は元気です。
現在は無事、馬車に乗り込みまして、激しい揺れに襲われています。
ハハ。気持ち悪いです。
でも、テンションは高いよ。ホントに)
馬車の窓から町中が確認できるのだが、人が多めのようで、ミクには慣れていない騒がしい賑わいのある声が聞こえてくる。
ミクが窓から視線を外すと、向かい側にはヴィヴィアンが座っていて「大丈夫ですか??」と心配そうな顔をしていた。
「…大丈夫、もうすぐ着くんでしょ?」
「はい、もうすぐです」
(よかった、生きられそうだ)
「あ、お嬢様、クラウディア様と待ち合わせのお店に着きました、降りましょう」
そうヴィヴィアンが言うと、本当に馬車が止まったらしい。
ミク達は馬車から降りて、洒落たカフェの目の前にやってきたのだが、そこにはおかしな光景が広がっていた。
「なんでいるんです、マティアス様!?」
「…たまたまだよ、今日は仕事がなかったから…」
「…誰だ?」
「あら、お兄様はまだお会いしていませんのね?」
「あぁ」
(ん????????????????
なんで、なんでマティアスとレン・オースティンまでいるんだ…???????)
まだ三人には気づかれていないミクは一人混乱していた。
それもそのはず、何故か攻略対象が二人も勝手にここにやって来ているのだから。
「あら、やっといらっしゃったのね、ミクさん!!」
(気づかれてしまった…踵を返して帰ろうと思ってたのにナァ…ハハハ…)
「おはようございます…クラウディア様…」
「あ、ミク…おはよう、今日は体調がよさそうだね?」
「おはようございます…マティアス様」
(今日もなんか光り輝いてますね…まぶいよ、まぶい)
クラウディア様の横にいるもう一人の攻略対象にミクは苦笑いで自己紹介をする。
「…初めまして、ミク・ミカエリスです…」
(マティアスとクラウディア様の後ろに仁王立ちしているレン・オースティンに対してかなり控え目に挨拶をしてみる事にしたが…。
反応が怖い、顔、まったくまともに見れんのですが…??)
「初めまして、僕はレン・オースティンだ。クラウディアから君の話は聞いている」
「そ、そうなのですね…クラウディア様から…」
(よかった。会話できる。
しかし、何故これほど彼を警戒しているのかと言うと、えー白状します。
私、実はレン・オースティンルートをやったことがありません。
いやぁ…好きな攻略対象を優先的に進めた結果、彼のルートを攻略する前に転生してしまったせいで…。
なにも。
知らない。
正確には口コミにあった内容ぐらいしかなのだが。
どうあれヤバい。
彼に刺さる言葉を言わないようにしないと、そのまま監禁エンドまっしぐらという恐怖が待っている)
恐怖を抱えたまま、ミクはこのままなのはいけないだろうと入店を促した。
きっとミクの顔はよろしくない色に染まっているに違いない。
「あの、とりあえず、お店に入りませんか?」
「あ、そうね!! 入りましょう!!」
(とにかく店内へ入ってから様子は探る事にしよう。
レン・オースティンを攻略するためではなく、攻略しないために情報がいるし、会話をしてみないと)
奥の席に案内されたミク達は男女でテーブルを挟んで向かい側にそれぞれ座った。
ミクの隣にいるクラウディア様は「どれに致します??」とニコニコしながら向かい側の攻略対象二人にメニューを見せている。
店内はシックな趣で、かなり落ち着く雰囲気だった。
店員を呼び、注文してから数分後にミクの前に紅茶が運ばれてきたので、それを飲みながら「そういえば」とデートに誘われた目的を思い出した。
「えーと、今日は買い物でしたよね?」
「えぇ、そうよ! ここで少しゆっくりしてから、その後ドレスを買いに行きましょう~!!」
「はい……ん?ドレスですか?」
「えぇ、今度青の国主催でパーティーを開くから、是非ミクさんも、とあなたのお父様には既に伝えてあるわ」
「パ、パーティーですか!? 聞いていないのですが…」
「ふふ、当日は迎えに参りますから、安心して?」
「…はい」
(逃げられない。泣いた。
しかし、パーティーか…誰が来るんだろう…)
「そのパーティーは誰が来るのでしょうか?」
「マティアス様たちもご招待しておりますわ!」
「あぁ、俺も行くよ」
(え、んーマティアスもいるのはヤバいか?
いや、待て。むしろ好機なのでは?
クラウディア様(ヒロインであり、プレイヤー)とマティアス(乙女ゲー攻略対象であり、主人公)をくっつけるいい機会なのでは?
私が上手く誘導して、邪魔にならないようにすれば…)
「そうなのですね! じゃあ、クラウディア様のエスコートはマティアス様が?」
ミクはパーティーにおけるパートナーの重要さをしっかりと理解していた。
パートナーとは意中の相手を独占できる権利に近いのだから、と。
(よし、ここは一番大事なパートナーをマティアスにやってもらうぞ…!!)
「え!?」
ミクはクラウディア様の顔が赤くなっているのをしっかりと見てから、次にマティアスの反応を確認した。
「…」
マティアスは真顔のまま、腕を組んでどこか遠くを見ているようだった。
(沈黙??…そんなに嫌なのか…)
このままでは沈黙が続いてしまうと焦ったミクはマティアスからレンに視線を移した。
レンはミクと目が合うと、何故か少し驚いた顔をした。
「あー、レン様は誰かエスコートされるのですか?」
「いない」
「なら、よければ私と入場しませんか?」
「…いいが、クラウディアは誰がエスコートするんだ?」
「それは、マティアス様に…」
マティアスがそのままの姿勢で眉間にしわを寄せた顔をして、ミクを見てくる。
(申し訳ないが、ここは引けないのだよ!!)
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