07 女神様のお返事
数日後、朝霧さんの返事を聞くためにまた病院に来ている。今回も藍住隊員と一緒だ。
別に何とも思っていない。どうなるんだろうと思っているだけだ。
「姫奈さん。今日は姫奈さんが今後どうしていきたいかどうかの返事を聞きにきました。まだ決まってなかったらいいのですが、どうでしょうか?」
藍住隊員が、朝霧さんに聞く。すると彼女は少しだけ頬を赤く染めて答える。
「大体は決まりました」
「おぉ、どうしたいですか?」
「湊斗くん」
「はい」
「湊斗くんのお家に行ってみたいです……」
「へッ?」
朝霧さんは少し視線を合わせづらそうにしながらも自分の方を向いて答えた。少し体が震えていて、その後下の方を向いてしまった。
予想外の答えに頭がポカーンとしてしまう。
朝霧さんの口から自分の家に行きたいという言葉が出るとは思っていなかったからだ。
(え、ガチでそうきたのか……?)
現実味がない。
別にまだ一緒に暮らすことになったことではないが、一緒に暮らす前提となって話をしていると思うとドキドキしてしまう。
学校でかわいいと皆に言われているらしく、少なくとも自分の目にもそう映っている。ここ数十回のお見舞いでいい人だと思っているし、一緒にいて楽しい。
だから、そんな朝霧さんの口からお家に行きたいと言われると不思議な感覚に襲われる。
彼女が真剣に考えて出した答えだったら否定するつもりはない。
今後、どうするか提案してからある程度日にちが過ぎていた。
だからなんとなくで決めたことではないはずだ。これからの彼女の進路を決めることだし、彼女は彼女なりに一生懸命毎日考えていたことだろう。
朝霧さんの言葉にちゃんと寄り添うことにする。少しだけ驚いてしまったのは申し訳ない。
別に家に来る分にはいいし、ちゃんと部屋も整理しているつもりなので心配はしていない。
藍住隊員も予想外の答えだと思ったらしく、口をポカンと開いている。
こういう時は、相手をあまり恥ずかしくさせないように普通の表情をするべきなのだろうが、予想外過ぎてそんなことは二人とも出来なかった。
「驚かれるのは分かっていたのですが、私なりにちゃんと考えて、どうしても他の選択肢にいいものがないと思って、一回湊斗くんの家に行ってみたいと思って」
朝霧さんは慌ててしまって、顔を赤く染めながらあわわわと沸騰しているようになっていて、つい言葉がおかしくなってしまっている。
迂闊だった。
本当にやってしまったという申し訳ない気持ちと、朝霧さんの恥ずかしがっている姿が妙にかわいい。
こんなことを思うのも違うと思うが。
「全然恥ずかしいことではありませんよ、姫奈さん。私も少しだけ驚いてしまったのは申し訳ないのですが、ちゃんと考えて出た答えなら私は嬉しいですし、姫奈さんの意見を尊重しますよ」
「ありがとうございます……」
確かに藍住隊員の言うとおりだ。朝霧さんが真剣に考えて出た答えならなら、我々は否定しないし尊重する。
「朝霧さん、僕も少しだけ驚いてしまったのはとても申し訳ないと思っています。でも朝霧さんがそう思っているなら大歓迎しますし、僕としても悪い選択肢とは思っていません」
まるで一緒に暮らすことを勧めているような言い方になってしまったが、言ったことは間違いではない。
この選択肢を決めた朝霧さんの手助けになれたらそれでいいと思っただけだ。
「湊斗くんもありがとうございます……」
まだ顔は赤くなっているが、朝霧さんは少し安心したようだった。
たけど、まだ視線は合わせられないようだ。
「湊斗くんもこう言ってますし、大丈夫ですよ。それじゃあ早速いつにしましょうか」
「そうですね……湊斗くんはいつがいいですか?」
「僕はいつでもいいんですが、家の周辺などもじっくりと知りたいでしょうし、時間に余裕がある日がいいんじゃないでしょうか?」
「そうだね。見学するにも短時間じゃゆっくりと見ていられないし、じっくりと考えられないからね」
「朝霧さんはどうですか?」
「私もいつでもいいです。もう外に出歩いてもいいほどに回復はしていますから」
「そうなんですね。藍住隊員も一緒にいた方がいいと思いますし、今度の日曜日はどうでしょうか?」
「私はいいですよ」
「私もいいです」
「それじゃ今度の日曜日で」
一応は一緒に暮らす前提で見学するとのことなので、時間がある休日を提案した。
周りに何があるか、学校までの道のりはどんなものなのかなど、色々なことを知りたいだろうと思ったし時間があったほうがいいだろう。
すぐに曜日が決まって良かった。ちょうど一週間後だ。
(それまでに色々と準備とか掃除をするべきだな)
なんせ滅多に人を招くことはないし、朝霧さんには汚いだとかそういうことは思われたくなかったのでちゃんと準備するつもりだ。
(どうなるんだろうな……)
この時はりんごを持ってきました。