67.5 西園寺と杠葉
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教室に戻り、一応は理解した男子達が伊織と湊斗の周りを取り囲む。その後ろに興味を持った女子達も、あれやこれやと話しながら耳を傾けている。
伊織は朝一番から遅刻もせずに来ており、湊斗と同様、変装をせずに学校に来ていた為、朝のホームルームまではチラチラとクラスの奴らに見られる程度であったが、1限目のイベントで蜜柑に告白した生徒が振られ、蜜柑が好きな人は伊織だと言ったがために湊斗と同じ状況になっていた。
「今でも信じられねぇ」
「お前らそんな顔してたのかよ」
「なんだ?今更、コンタクトに変えたのか?」
(あぁ……)
男子達が湊斗のことを見ながらゴチャゴチャと思った感想を口から吐き出すのに、まともに話したことがない人にまで馴れ馴れしく言い寄られている為、湊斗に困惑と少しの苛立ちが襲いかかってきていた。
「いやぁー俺たち今まで変装してたんだよねー」
「変装?」
「そう。昨日、俺らのこと見ただろ?治安維持隊に所属しててさー、治安維持隊って18歳以下は入れないんだけども……」
対する伊織は腕を組みながら、余裕ぶって皆から注目されているのを楽しんでいる。
「まぁ、その治安維持隊のことは一旦どうでもいい!それでさ、お前ら学校の超美人な2人になんで好意を持たれてるんだよ!」
「そうだ!本題はそれだよ!おかしいだろ!」
「いやぁーそれはな……」
(誰か助けてくれ……)
湊斗はもう呆れていて、限界寸前だった。
姫奈との関係は一緒に同居しているだなんて男子達に言えば本当に殺されてしまうだろし、口が裂けても言えない。
どう言い逃れをしようかと湊斗は悩んでいると、教室に1人の先生が入ってきた。
「はーい。皆、一旦座ってね~」
そこに入ってきたのはクラス担任ではなく、藍住隊員だった。
その場にいた全員は藍住隊員を見た瞬間、一気に静まり返って席に戻る。
「えーっと、まず、湊斗くんと伊織くんについて説明するんだが……」
藍住隊員は皆がちゃんと席に戻ったことを確認して、教壇の上に立つ。
「彼らは治安維持隊員なんだ。本来、高校生は治安維持隊員にはなれないが、人員不足の為に彼らが試験的に治安維持隊員になって、彼らの成績が良ければ高校生の募集も始めようとなったんだ。それでこの事は秘密であって、湊斗くんと伊織くんは治安維持隊員だとバレてはいけないがために苗字と見た目を変えて目立たないようにしていたんだ」
「おぉ……」
「彼らはとっても優秀なんだよ。いつも私と事件を解決したりしているんだ」
「す、すげぇ……」
湊斗と伊織のクラスメイトは藍住隊員の話を聞きながら驚いた表情を見せて湊斗と伊織達を見ている。
「彼らの本当の苗字は何なのですか?」
「湊斗くんが西園寺で、伊織くんは杠葉だ」
「さ、西園寺?かっけぇ……」
「杠葉……本当に蜜柑さんのお兄さんなんだ……」
1人の男子生徒が藍住隊員に質問すると、その答えを聞いた男子生徒と女子生徒が声を上げる。
クラスメイト全員が度肝を抜かれているようで呆けた顔をしている。
何せ、今まで馬鹿にしてきた2人が実はとても優秀で、彼らといる世界が違っていたのだから無理はないだろう。
湊斗は皆からの視線を恥ずかしく思いながらも藍住隊員の話を聞いていて、伊織は心地良さそうに笑みを見せながら聞いている。
「あははっ。皆、驚いているようだね。彼らはとてもいい顔をしているだろう」
藍住隊員は、きょとんとした皆の様子を見ながら笑う。
変装をしていた湊斗と伊織はどちらも顔立ちがいい方で、初めて彼らの素顔を見た男子と女子達からは好印象を持たれているみたいだ。
「これからはもう治安維持隊員の事を隠す必要がなくなったから、彼らも普通に登校するようになるよ。だから皆、仲良くしてあげてね」
そう言って藍住隊員はにっこりと笑ったあと、教室を後にした。
その後、担任の先生が入ってきて授業が続行された。
☆☆☆☆☆☆
休み時間となって、湊斗の教室の前には姫奈が来ていた。
「湊斗くん」
姫奈が教室のドアから湊斗のことを呼ぶと、それに反応して男子達が姫奈のことを見るが、姫奈は男子達に興味を示さずにただ湊斗のことを見ている。
呼ばれた湊斗もただ姫奈の方を見て、周りの視線を浴びながらも姫奈の所へ向かう。
「いいなぁーー」
「どうして湊斗が……」
クラスの男子達が悔しそうに言うが、何も出来ないようだ。
「どうしたんだ?」
周りの視線を浴びながらも姫奈の所についた湊斗が姫奈に声をかけると、姫奈は嬉しそうに笑って湊斗の手を取る。
「こっちに来て」
「あ、あぁ……」
急に手を掴まれた湊斗は少し驚きながらも、姫奈の手を握って姫奈についていくと、人があまり来ない場所までつく。
そこにつくと姫奈は再度笑って湊斗に話し掛けた。
「やっと、学校で普通に話せるようになったね」
「そうだな。嬉しい」
「私も」
「それで、どうしたんだ?」
「今日の放課後、一緒に帰ろう?」
姫奈は上目遣いで湊斗におねだりするかのように言う。
「もちろん」
湊斗は姫奈の目を見ながらにっこりと笑って答えた。
それから2人は一緒に帰ることになって、学校が終わるまで2人とも内心ニヤニヤが止まらなかった。