64 決めた心
数日後、学年末テストを無事終えて、肩の荷が少し降りたところで、今日の維持隊の仕事も一通り終わって、デスクで一息つく。
「はぁー最近変な事件が多いわねぇー」
「ですねー。何か裏で起きてるのでしょうか……」
隣で座りながら背伸びをしている小林先輩が言う。
自分は再度パソコンをスクロールしながら、事件に関しての情報をまとめた資料を見ていると、隣から視線を感じて小林先輩の方を向く。
「どうかしましたか?」
「ちょっと、面談室に来てくれない?」
「分かりました」
(何だろう、急に……)
それからパソコンの電源を切って、何を言われるのか想像しながら小林先輩と一緒に面談室へ向かった。
☆☆☆☆☆☆
「どう?最近、姫奈ちゃんとは」
小林先輩が目の前に座って、息子の事を聞き出す時の母親の顔のような顔で微笑みながら聞いてくる。
「ま、まぁ、今まで通りですが……」
「そう」
薄々、小林先輩に呼ばれたのは姫奈のことだろうなぁと思いながら、想像通り自分が思っていたことが的中したので、少し困惑しながらも小林先輩からの問いかけに答える。
(一体、何を聞いてくるんだろう)
何せ、面談室まで自分を連れてきて姫奈のことを聞き出そうとしてくるんだから、普段聞いてこないような事を聞いてくるのだろう。
しかも、小林先輩は姫奈と裏で繋がっているし、姫奈が何か小林先輩を通して自分に聞いてほしいと頼まれて小林先輩が今から聞いてくるのかもしれない。
目を細めてじーっと自分を見つめる小林先輩に、緊張を覚えながら自分も小林先輩を見ている。
「ど、どうしたんですか?」
「それで、湊斗くんは今、どうしたいのかなって思って。姫奈ちゃんの事、恋愛的に好きなの?」
「そ、そうですね……」
ド直球に姫奈の事が好きか聞かれて、口に手を抑えて少し言うのを躊躇ってしまう。
ドクンドクンドクンドクン
心臓が少しづつ鼓動の刻みを速くしてくるのを感じながら、その質問に答えた。
「好きです」
小林先輩の目を見て言えなかったが、それでも今の姫奈に対する気持ちを小林先輩に伝えた。
その言葉を聞いて小林先輩はニッコリと微笑む。
「いいじゃない」
「……」
その言葉を聞いた瞬間、心臓がドクンっと今度は優しく高鳴ってじんわりと温かくなっていく。
今の小林先輩。いつもはニヤケているが今日は純粋な女性のようで、まるで母親のような包容力を身にまとっていて、安心感が湧いてくる。
こんな小林先輩は今まで見たことがなくて、小林先輩もこういう一面があるんだなっと驚きもある。
(何だか、女神様……みたいだ)
「どうして、それが分かったの?」
そのまま、小林先輩は包容力のある笑みで話を続けてくる。
「そうですね……他の女子を見ていても何も思わないのに、姫奈を見るだけでドキドキして、話すのも緊張して、常に姫奈の事を考えてしまって、もう姫奈の事しか考えられません」
静かに、自分が思うままに口から言葉を漏らしていく。
「いつも姫奈と一緒に過ごしていたいって思います。彼女といない時間、彼女が何をしているか気になりますし、他の人と話している時を見たらモヤモヤが止まりません」
「なるほどね」
小林先輩は目を閉じて小さく頷きながら、自分の話を聞いていく。
「今までは、サポート役だから彼女の事を見ているだけだって思ってました。だから、彼女に変な感情を抱かないように我慢してたんです」
「うん」
「でも、前に小林先輩からサポート役を気にする必要はないと言われて、そこから一気に姫奈への思いが溢れ出てきたような感じで、姫奈をただの同居人って思えなくなりました」
「うん」
そう、あれから時間が経って、考えて、自分の姫奈に対する気持ちがやっと分かったような気がした。
自分は姫奈が好きなんだ。
そこで、小林先輩は閉じていた目を開いて、優しく問いかけてくる。
「姫奈ちゃんのどこが好きになったの?」
「自分と一緒にいてくれて、笑顔になってくれるところです。自分はあまり昔から人と接することが苦手な部分があって、人とはあまり関わってきませんでした。それで姫奈と出会って、姫奈が病院にいた時から自分と向き合って接してくれて、一緒に暮らすようになってからも、思いやりがあっていい人だって思いました。それから段々、彼女の色んな姿を見ていく内に好きになったんだと思います」
「湊斗くんのことをちゃんと見てくれていたのね」
「はい。自分と向き合ってくれた人が、姫奈以外だったらその人が好きになったんじゃないかと思われるかもしれませんが、姫奈じゃなきゃダメです。自分の弱い所も見せてくれて、今はありのままの姫奈を自分に見せてくれています。姫奈はかわいくて、学校で女神様と呼ばれるくらいに周りから人気がありますが、その部分を見て僕は姫奈を好きになったわけじゃありません。ありのままの姫奈が好きです」
そう言い切った後、小林先輩はゆっくりと頷いた後、また優しく微笑む。
「何だか素敵ねぇー。憧れちゃうわー」
「そうですか」
その反応に自分は少し笑って、微笑む。
こう思わせてくれたのは姫奈のおかげだろう。
「姫奈ちゃんに告白するの?」
「……します」
「いつ?」
「ホワイトデーです」
「いいじゃない」
少し前から、姫奈に告白しようと決めて色々と考えていた。
どのタイミングで言うか悩んでいたが、近々、ホワイトデーがあることを思い出してその時に姫奈に告白しようと決めた。
もう、姫奈の気持ちは分かっているので、待たせるのも良くないし、自分も早く伝えたい。
「小林先輩」
「何?」
「姫奈に告白する時に、小林先輩に手伝ってほしい事があるんです」
「え?何?」
「それはですね……」
それから、自分が告白当日にどう考えているか、小林先輩にどうしてほしいか話した。
「分かったわ。湊斗くん、結構センスいいじゃない」
「そうですか……?」
小林先輩が、少しニヤケて笑って、その様子を見て自分も笑う。
大した告白の方法ではないが、普通の人が考える……と言われればどうだろう。
「そうえば、もうすぐ姫奈ちゃんの誕生日ね」
「そうですね」
もう、明日には三月になって、姫奈の誕生日の月になる。
最初にお見舞いに行った時に、顔で判断して姫奈の誕生日を言い当てたことを思い出す。
(今考えても、変なことしてたよな……俺)
そう思って、ふふっと少し思い出し笑いをして姫奈の誕生日に何をしようか考える。
それから小林先輩との話は終わって、家に、姫奈の元へ帰ることにした。