63 嫉妬……?
バレンタインが終われば、次は学年末テストが待ち構えていた。
テストに関しては、日頃から授業や宿題に真面目に取り組んでいるため、それなりに学力もついていて困っているわけではない。いつも順位は真ん中より上ぐらいにはいられている。
ただ、テスト勉強に関しては家であまり出来ない為、、学校での授業や休み時間を通してでしか出来ない。
だから、もっと勉強できる時間があればもっと上の順位にまで上がれるのになと、少し悔しい気持ちを持つが、治安維持隊に所属するのを希望したのは自分だししょうがないことだ。
このテスト期間ウィークは、あまり休憩する時間がなかったりと少しハードな期間になるが、いつも通り頑張っていこうと思う。
そんなわけで、今、学校の休み時間中にテスト勉強に必要な教材に向き合って勉強しているのだが……
(あまり集中出来ない……)
なぜか、姫奈のことが気になって仕方がない。
(姫奈、今何してるんだろ)
一番後ろの窓側の席に座りながら勉強する手を止めて、窓から雲一つない青空が広がっているのをぼんやりと眺めながら姫奈の事を考えていた。
☆☆☆☆☆☆
お昼が過ぎ、5限目が終わって次の授業は移動教室だった。
必要な教材を用意して手に持ち、伊織と一緒に2階の奥にある教室まで一緒に向かうことにする。
2階の奥にある教室とは姫奈たちの1年生のクラスがある教室の、階段を挟んだ向こう側にある教室で、今自分たちがいる6組はその教室から真逆の学校の端にある教室で、1番遠い所にあたる。
なので1階を通ってその教室に行こうと思えば自動的に姫奈のいる2組の前を通ることになるので、試しにそのルートで行くことにしてみる。
「いやー今日も後1限で終わりだな」
「そうだな。頑張ろう」
隣で伊織が話しかけてくるのに答えながら階段を上って2階に行き、廊下を渡っていこうとすると、2組の前で一人の男子と一人の女子が話しているのが見える。
「早速、発見したな」
隣で伊織がその2人組を見るなり、自分の方を向いてニヤっと笑う。
「そうだな」
そう、男子の方は誰か分からないが、女子の方は姫奈だった。
男子の方が姫奈にノートを見せていて、どうやら姫奈から何か聞いているみたいだ。
それもそのはず、彼女は定期テスト学年1位の秀才な為、周りの人から分からない問題を聞かれるのは不思議な事ではない。
もちろん男子からもだ。
だから、今見ている風景も普通なら何とも思わないはずなのだが……
(何だか胸がモヤモヤする……)
その男子と姫奈が2人で話している風景を見ているのがやけに嫌だ。
(何だよ、この気持ち)
「伊織、行こう」
「お、おう」
嫌だった為に、その2人をあまり見ないようにしてそのまま2人の横を通る。
一瞬、姫奈から視線を感じたが、構わずにそのまま廊下を進んで行く。
「姫奈さん?どうしたの?何かあった?」
「い、いや別に何もないですよ。それでですね、これは……」
それから目的地の教室に着いて授業を受けると、その1限はモヤモヤでいつも通りに受けれず、時間が経つのがやけに長く感じた。
☆☆☆☆☆☆
帰宅後、一通りの事を終えて、少しだけリビングで姫奈と勉強して寝る準備に入っていた。
例の姫奈から避けられるようになった問題は、姫奈が自分への好意があると小林先輩に聞いてからあまり気にならないようになり、逆に自分も姫奈を前以上に意識するようになってあまり会話が続けられなくなったり、姫奈と目を合わせにくくなっていたりしている。
もう、姫奈と目を合わせるだけでドキドキするようになってきていて、ここ最近の自分の体の変化に驚きの連続だ。
これは、今までサポート役だからと言って、自分が我慢していた感情が今となって溢れ出て来たからなのか分からないが、姫奈と平常心で関われなくなったのが何だかむずがゆい。
歯を磨いて、後はベットに入るだけ、そう思ってリビングに戻ると自分のベットの前でパジャマ姿の姫奈が、何か言いたげな顔をしながら胸に手を当てて立っている。
(どうしたんだろう)
立っている姫奈に近づこうと歩くと、足を踏み外してバランスを崩し、そのまま姫奈の方へ倒れこんでしまう。
「うおっ」
「え!?」
バタンッ
幸い後ろにはベットがありケガをすることはなかったものの、目を開けると両腕の間に姫奈の顔が合って、どうやら姫奈を押し倒してしまったらしい。
「……!?」
「……」
お互い、突然の出来事に動揺を隠せなくて、思考が回らずにそのまま見つめ合っている。
目の前には、透き通った琥珀色の瞳、子猫のようなクリっとした鼻、綺麗な薄紅色に染まった頬、瑞々しい唇がある。
(かわいいな……)
このまま自分の物にしたいぐらいだ。
っと
ぼやけていた思考が正常に戻って来て、ここでやっと状況が理解できる。心臓がバクバクしてきて顔全体が熱くなってくる。
姫奈も顔が真っ赤に染まって来て、自分を見ていた目を横に逸らす。
一言で言うと、めちゃくちゃ最低な状況だ。故意でやったわけではないものの、パジャマ姿の同級生の女子を自分のベットに押し倒してしまったのだ。
今頃、姫奈は引いているだろう。
お風呂あがりな事もあり、姫奈の匂いがいつもよりも強くて普段見ている時よりも女らしく見える。
本当にまずい。今すぐどかなければ……
「湊斗くん……」
「ごめん!姫奈、これは違うんだ。故意にやったわけでは……」
すぐさま、姫奈から離れてその場に正座して、手を合わせて必死に謝る。
「本当にごめん……」
「い、いや、わざとやったわけじゃないのは分かってるから……」
姫奈は顔をぶわっと赤くしながら、ベットから起き上がる。
「そ、その分かってるから、湊斗くんがこういうことしないっていうのは……でも少しびっくりしただけで……」
「そ、そっか……。でも、俺の不注意だったし、びっくりさせてごめん……」
拳を握りしめて、バクバク鳴る心臓に抗いながら姫奈にもう一度謝ると、姫奈は小さく頷いてそのまま自分のベットに座っていた。
それから、お互いに目を合わせられなくて沈黙が続いてしまう。
(はぁ、、、この場からいなくなりたい……)
そう思いながら、その沈黙を過ごす。
「そ、そうえば、さっき何か言いたそうだったけど、何かあったのか?」
ベットに倒れこむ前の姫奈の様子を思い出し、姫奈に話しかけてみると、姫奈は反応して、自分の目を見て話し始めた。
「ん……湊斗くん、後ろ向いて?」
「え、あ、分かった……」
どうしたんだ?っと思いながら立ち上がって後ろを向く。
すると、姫奈もベットから立ち上がって、ゆっくりと自分の背中に抱きついてきた。
「ひ、ひめな!?」
自分の問いかけに対し、姫奈は反応しない。自分の腹に通された姫奈の手が震えている。
それから数十秒、沈黙があった後、姫奈は口を開いた。
「もう、私の気持ちは分かってるよね……?」
「え、あ、うん……」
私の気持ち、、、
「後は、湊斗くんがどうするかだよ……私待ってるから」
「……」
それから、姫奈は自分の背中から離れて急ぎ足で、部屋へ入っていた。
一人、リビングで取り残された自分は、姫奈は去って行った方を向いて思考が停止していた。
(姫奈……)