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62 誰の分のチョコレート?

 伊織の住まいはアパートで、到着してから傘を閉じてドアの横にあるインターフォンを鳴らす。


ピンポーン


「は~い」


ガチャリ


 数秒待って足音が近づいてくる音が聞こえ、その後ドアが開くと目の前には姫奈と蜜柑がいて、その後ろに伊織もいる。姫奈はまだ制服姿で、自分が一旦家に帰った時は家にいたので、維持署に行ってから制服のまま杠葉家に来ていたようだ。


「おぉー来た来た」

「おぉー西園寺くんだぁー」


 杠葉兄妹が自分を見るなり、珍しいなみたいな顔をして声を上げる。杠葉家にはあまり訪問しないので不思議に思っているのだろう。


 ドアを開けっぱなしにするのも失礼なので、一旦は玄関に入らせて貰うことにして中に入る。


 それから、姫奈は自分を見るなりその場で頭を下げてきた。


「ごめんなさい、湊斗くん。心配かけて、しかも私を迎えに来る手間までかけさせてしまって……」

「大丈夫だよ、姫奈。俺もメール確認してなくてごめん。何も気にしなくていいよ」


 そう言って、姫奈の頭を上げさせる。


「まぁこういう時もあるよなー。今日のことはしょうがないだろう」

「うん、そうだよ。私も西園寺くんに姫奈ちゃんを借りること言ってなくてごめんね」

「全然大丈夫だ」


 杠葉兄妹がフォローを加えてくれ、そのおかげで申し訳なさそうに引きずっていた姫奈の顔も少し緩む。

 

 今日のことは自分が姫奈からのメールを確認していなかったことが一番の原因だし、姫奈を迎えにいくことなら全然迷惑ではない。

 でも、姫奈は他人のことをとても気に掛ける人だし、迷惑を掛けているのではと自分が来るまでの間、色々と考えていたり、焦っていたりしたのだろう。


「いやーそれにしても、湊斗と朝霧さんが二人で居る所を初めて見るなー」

「そうだね、お兄ちゃん。この二人が一緒に住んでるのかーって思うとニヤニヤくるよ」

「あはは。そうだな、ニヤニヤしてくるぜ」

「何だよ。お前らだって一緒に暮らしてるじゃないか」

「兄妹だからなー。君たち赤の他人だろ?」

「まぁ、そうだが……」


 杠葉兄妹が、興味津々に姫奈と自分の事を見てくるので恥ずかしい。


 姫奈も少し頬を赤く染めながら、杠葉兄妹を見ている。


「まぁまぁ、いじるのはあまりよくないからやめにして、よかったらもう夕飯時だし、二人ともうちで夜ご飯を一緒に食っていかないか?」

「いや、それは悪い」

「そうです。今までも、杠葉さんにお世話になったのに夜ご飯までお邪魔出来ません」

「いやいや、いいんだよ。たまには大人数で食べたくないか?」

「でも……」

「大丈夫だって、ほら、上がって上がって」

「悪いな……」


 伊織からの突然の提案に姫奈と共に遠慮するも、目の前の兄妹の強引さに勝てることは出来ず、そのまま杠葉家で夕食を一緒に食べることになった。


☆☆☆☆☆☆


 夕食は姫奈と蜜柑の共作であって大変美味しい物であった。


 大人数で食べるのは久しぶりのことで、途中、姫奈が自分にタメ口を使っている所を見た杠葉兄妹が「私たちにもタメ口で話してよ」と言い、それから姫奈は蜜柑だけでなく伊織にもタメ口を使って話すようになり、気を遣わずに皆で夕食を楽しむことが出来た。


 姫奈も終始嬉しそうに話していて、それが一歩、女神様から脱出したように思えて嬉しかった。


 そして杠葉兄妹にさよならを言い、杠葉家を後にして姫奈と一緒に家へ帰ることにした。


「傘さしてくれて、ありがとう。つらくなってきたら言ってね?変わるよ」

「あぁ、ありがとう」


 姫奈の横を自分が傘をさしながら歩く。いわゆる相合傘の状態だ。


 今の状態が恋人のようで、小林先輩の話を聞いたこともありいつも以上にドキドキする。


 姫奈が今、どう思っているのか。見た目では分からないが、彼女の少し頬が赤いように見える。


 ドキドキしてくれているのだろうか。


「そうえば、学校は終わったのに何でバレンタインチョコを作っていたんだ?友達には渡さなかったのか?」

「それは……内緒。友達の分はもう昨日作ってあったから、今日渡してきたよ」

「そうだったのか」


 姫奈は白い紙袋を手に持ちながら歩いている。


 きっとここに今日作ったチョコレートが入っているのだろうが、それが自分の物だとは限らない。姫奈は皆から人気者だし、追加分で蜜柑に誘われて杠葉家で作っていたのかもしれない。


(……どうなんだろう)


 今までに、バレンタインなんて気にすることがなかったのに、今、こうとても気にしている自分がやけに違和感に感じる。


 ソワソワが止まらずに、姫奈が誰に渡すのだろうと考えながら雨の中を二人で歩いて家を目指した。


☆☆☆☆☆☆


「湊斗くん」

「どうした?」


 姫奈に背後から呼ばれたのは、家に入って手洗いを済ませ椅子に着こうとした時だった。


 振り向いてみると、赤色のリボンが付いた箱を両手で持って差し出している姫奈が立っている。


「……もう分かってたでしょ?湊斗くんにあげるチョコレートを作っていたって」

「……」


 頬を真っ赤に染めていたり、琥珀色の瞳を泳がせていたりと恥ずかしさを全身に出しながらも、勇気を振り絞って自分の前に立っているようで、その姿を見ていると、今までにないくらいに心臓が高鳴ってしょうがない。


「ん……受け取っていいのか?」

「うん。受け取ってほしい。一緒に住んでいる義理とかじゃなくて、私が渡したくて、湊斗くんにあげるんだから」

「……ありがとう」


 その言葉にまだまだ鳴りやまない鼓動に温かみが加えられ、そのまま姫奈から箱を受け取る。


(姫奈が俺に渡したくて……)


 その言葉が嬉しくてたまらない。


「今まで男の子にチョコレートなんてあげたことないんだよ。だから湊斗くんが初めて。しかも手作りだよ?」

「嬉しい……めっちゃ嬉しい。俺もバレンタインにチョコレートを貰うの姫奈が初めてだ」

「そ、そうなんだっ……」


 姫奈は恥ずかし気に話しながらも、自分の目を見ながら話す。そこに直接渡したかったという思いが感じられて、嬉しさが加わる。


 姫奈の手作りチョコレートを初めて貰った男だと分かり、自分が彼女を手作りで渡したいと思わせるぐらいまでに彼女の心をいつの間にか動かしていたのかと実感して、また嬉しい気持ちになる。


「……開けてもいいか?」

「……いいよ」


 姫奈に許可を貰い、嬉しさと緊張で震える手でリボンをほどいて箱を開けてみる。


パカッ


 開けてみると、中には赤色にコーティングされた大きいハート形のチョコレートが一つ入っていた。


(ハート型だ……)


 その形を見るなり、また心臓が大きく跳ね上がる。


 彼女は意図的にハート形に作ったのか分からないが、やっぱりハートという形には目を奪われてしまう。


「凄い綺麗に作ってあるな。もったいなくて食べれないよ」

「……嬉しいけど、食べてくれなきゃ困るよ」


 姫奈は自分の様子を伺いながら、自分の目を見る。


「気に入ってくれた?」

「うん。凄く」


 そう言うと、姫奈はニッコリと笑った。


「嬉しい。頑張って作ったかいがあったし、手渡しで渡せてよかった」

「俺もホワイトデーに何か返したい。だから楽しみにしてて」

「……うん。楽しみにしてる」


 それから、記念に写真を撮って大事にまた蓋を閉めて、いつ食べようか楽しみにしながら冷蔵庫の中に姫奈から貰ったチョコをしまった。

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