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60 姫奈の変化

 2月に入り、まだ引く様子のない寒さに耐えながらも過ごす日々が続いている。


 今も変わらず二人でいつものように生活していて、朝ご飯担当は姫奈、夜ご飯担当は自分になっていて、姫奈には相変わらず美味しいご飯を毎日食べさせてもらっている。


 学校では、前にあったように姫奈が自分の事を見に来ることはないが、一日に一回は彼女のことを必ず見るようになっていて、一緒に住む前と比べて明らかに彼女の存在が学校でも大きくなっているのが目に見えて分かっている。


 ただ一つ変わったことがあり、それは二人で一緒に出かけたあの日から姫奈の様子が以前と変わっていて、あまり向こうから積極的にギューをしたり、話掛けたりしてこなくなっていて、目があっても逸らされたり、話していてもあまり会話が続かなかったりしている。  


 それが現代の女子高校生として一般的なのかもしれないが、今までとの変わりように何か彼女に知らない間に嫌なことをしてしまったのではっと不安になっている。


 もちろん、自分は彼女に何か悪いことをした覚えはない。


 それで、彼女には「何か姫奈に嫌なことをしてしまったか?」と聞いてみたが「ううん、湊斗くんに何も嫌な事されてないよ。湊斗くんは何もしてないから。私が急に変になっちゃってるだけで……」っと姫奈は急に慌てて両手を振り出して、そのまま部屋へ行ってしまった。


 それから、何度も彼女にアピールして何か聞き出せないか、何か姫奈に変化はないか、見落としている所はないか見ていたりしたが、何も分からない。


 あまり無理に聞き出すのもいけないと思い、どうして急にそうなったか色々とネットで調べてみたりしたが、自分にはあまり納得がいくような答えが見つからず、とりあえず今日は小林先輩に聞こうと思っている。


 姫奈は姫奈で、弁当は毎日作ってくれていたりと、普段のことから頼んでないことまでやってくれているので、そこまで嫌われているとは思っていないが……


 いつものように維持署のデスクで一仕事を終えた後、休憩時間中に小林先輩を飲み物を買いに行こうと誘い込み、署の中にある自販機の前で小林先輩に聞いてみる。

 

「小林先輩、最近、姫奈の僕に対する接し方が前と違っていて避けられているように思うんですが、何でだと思います?」


 小林先輩は、問いかけに反応し買ったジュースを一口飲んでから口を開く。


「な~んでだと思う?」

「自分で考えでみましたが、分からなくて……」

「そうか~。まぁ女の子が急にそうなっちゃうと不安になっちゃうし分からないよね~」


 それから小林先輩は、顔の前で人差し指を立てる。


「それじゃ、私がその疑問を解決して見せましょう!」

「おぉ、心強いです」


 急にやる気になった小林先輩はまるで先生にでもなったかのように得意げに話し始める。


「姫奈ちゃんが急に避けるようになってしまった原因は……」

「原因は……?」

「ずばり、好き避けという現象でしょう!」

「好き避け……?」

「うんうん」


 小林先輩はそう言ったあと、満足げに笑みを見せ、二回頷く。


(えぇ……?)


 好き避け。携帯で調べた時に見かけた単語で、意味は知っている。確か、好きな人に素っ気ない素振りをしたり、冷たい態度を取ってしまったりするというものだ。


 それを見た時は、今の姫奈にはこれは当てはまらないのでは?と思い、そのまま他の答えを探すことにしていたが、まさか小林先輩の口からこの単語が出てくるとは思わなかった。


「え、つまり、姫奈は自分のことが好きで避けているということですか?」

「おぉ、分かってんじゃん湊斗くん~。そうだよそうだよ」

「……」


 あまり納得が出来なくてその場で黙り込んでしまう。


(姫奈が、俺のことが好きで避けている……?)


 今の姫奈の状態が本当に好き避けという状態なのか疑問で頭が一杯になる。


 姫奈と普段からメールなどでやり取りをしているであろう小林先輩からそう言われてしまうと、説得力が増して、本当なのだろうかと思ってしまう。


 やけに鼓動が激しくなってきて、顔の頬の辺りが熱を帯びてきたようでジンジンとしてくる。


「何か、納得がいかないような顔してるね~。湊斗くんも薄々は姫奈ちゃんの好意には気づいてるでしょう?」

「え……?」


 また、何と答えていいか分からなくて黙ってしまい、小林先輩の目から視線を下へ外してしまう。


 確かに、姫奈が自分のことを好ましく思っているとは感じている。姫奈から積極的に関わろうとしてくれるし、あくまでサポート役の自分に世話までしようとしてくれている。


 何も思ってない人が相手ならここまでしないだろう。なんせ、姫奈は前までは男の人が怖くてあまり関わろうとしてこなかったわけだ。

 なのに男の自分に関わろうとしてくる。自分が周りの男よりからも姫奈から特別な目で見られているとは理解している。


 でも、今の話の通りでいくと、あくまで好き避けは恋愛的な感情での好きの場合のことだ。


 恋愛的に姫奈が自分のことが好きだから避けているんだと言われても、本当に恋愛的に姫奈が好きなのか自分には分からない。


 何せ、彼女は何人もの男子から告白されてきても、どれも断ったんだ。特別扱いの自分でも、恋愛的に好きになるというのはありえないのでは……と思う。


「色々と考えているようだけど、鈍感な湊斗くんにはきっぱりとここで申し上げておくよ」

「……」

「姫奈ちゃんは湊斗くんのことが恋愛的な意味で好きなのよ。男への苦手意識がある彼女にとっても、もう湊斗くんには恋愛的に好きになるほどに、姫奈ちゃんが湊斗くんを欲しいと思うほどにまでなっちゃっているんだから」


 小林先輩は自分の表情を見て呆れたのか、それともキッパリと言おうと決意したのか真面目な口調でそう言った。


 キッパリと言われてしまった自分は、その言葉に心臓が今まで以上に高くなって、余計に小林先輩と目が合わせられなくなる。


「もうさ、サポート役とかいう縛りなんて気にする必要ないのよ。姫奈ちゃんが湊斗くんのことを好きだって分かった今、もう湊斗くんが思うままに動けばいい」

「好きなように……」


 そう言われて、心に巻き付いていた何かがほどけたようで、心の中でやきもきしていた気持ちが消えてスッとなるような感覚になる。


 そして何か分かったような気がした。


 自分はサポート役のことばかり気にしていて、姫奈自身が望んでいることに気づいてなかったのかもしれない……っと。


「相手を恋愛的に好きになるというのはどういうことですか?」


 正月の初詣の時に、藍住隊員に聞いた言葉を小林先輩に聞いてみる。まだ自分の思いがどうなのかはっきりと分からないからだ。


「そうね。その人とずーっと一緒にいたいって思えること。その人の事が常に忘れられないこと……っかな」

「なるほど……」

「まぁ、早めがいいんだけどさ。湊斗くんも異性との経験とかあまりなかったわけだし、自分の気持ちがちゃんと分かるまで、少し考えてみるのもありだよ。姫奈ちゃんも少しなら待ってくれるだろうし」

「……分かりました」

「まぁ壁ドン!とかしてみて、ドキッとするか?とかやってみるのもありかもね」


 それから、小林先輩は笑って「ここからが面白いところかもねぇ」っとニヤニヤしていた。


 その様子を見て、自分は少し考えた後、買ったジュースの蓋を開けることにした。

再開します。

この更新で一区切りつく所まで行く予定です。

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