59 ハプニング?
「食べ過ぎた……」
「美味しかったもんね~」
「だな」
食べ放題の店を出て、二人でまた手を繋いで歩き出す。姫奈は満足そうな笑みを浮かべて横を歩いている。
あれから甘いものを沢山食べて、もう腹の中はパンパンだ。
甘い物だけでは苦しくなってくるため、休憩したり、ご飯ものを食べたりと調整して頑張ったが、スイーツの種類は思った以上に多く全種類制覇までとはいかなかった。
二人とも途中で限界を迎えてしまい、最初は余裕と思っていた気持ちもどこかへ行ってしまって制限時間まで余らせてしまう結末となってしまった。
まぁ、彼女の幸せそうな顔を見られて、それだけで満足感でいっぱいなので、行き過ぎない程度に楽しめて一番良い結果になったと思っている。
「湊斗くんの前であんなに食べちゃって、何だか恥ずかしいよ……」
「気にすることじゃない。沢山食べてる姫奈を見るの、好きだぞ」
「……それが恥ずかしいんだよ?」
姫奈は目を逸らしながら、頬を薄紅色に染める。
彼女の食べ方は一つ一つが品があり、がっついているのではなく、パクパクと食べ進めていく。
だから、逆に愛嬌があるというか、かわいいし見ている自分までも癒されるような食べ方をするので自分としては何も思っていないし、むしろ遠慮せずに食べてくれていてよかったと思う。
「今から何かしたいことあるか?」
「……まだ一緒にいたいよ」
「あ……うん……」
今度は視線を外していた彼女が自分の問いかけに反応して、その場で立ち止まり、上を向いて自分の目を見ておねだりするかのように見つめてくる。
その瞳に少しばかり心を奪われて、どう返せばいいか分からなくなる。それと同時に頬が熱くなってくる。
(俺も、まだ姫奈と一緒にいたい……)
心で姫奈と同じ思いになりながら、直接、姫奈に言うことが出来ずに自分の中で留まってしまう。
「そ、それじゃ、沢山食べたことだし、運動も兼ねて歩きながら景色のいい所でも行こうか」
「うん」
姫奈は自分の言葉に対し、頬を薄紅色に染めながら、目が一瞬輝いてコクリと頷いた。
今いる地域は自分たちが住んでいる地域からそれほど離れていない地域だが、自分は来たことがなく初めてで、今いる地域のことは全く知らなかった。
だから今回姫奈と出掛けるということもあり、事前に携帯のマップで検索して周辺に何があるかは調べてあった。
ここもある程度栄えている地域だが、近くに海があったり展望台があったりと二人で行くには最適な場所が沢山あることが分かっている。
その後、姫奈は微笑んでから、再び上機嫌で歩を進め始めた。
☆☆☆☆☆☆
そのままショッピングモールの外に出ようと歩いていると、同じ年代のような女子三人組に目を付けられて声を掛けられる。
「あれ、姫奈さん?」
「姫奈さんじゃん!」
「姫奈さんだ!」
どうやら、姫奈の知り合いらしい。姫奈を見た瞬間、笑顔で駆け寄ってくる。
「……こんにちは」
「やっほー!」
「え、姫奈さん、隣にいるの彼氏さん?」
「え、姫奈さん彼氏いるの?」
駆け寄ってくると同時に三人組は馴れ馴れしく姫奈と接してくる。どうやらお互いに随分と仲がいいようだ。
当然、今は姫奈と手を繋いでいるため、自分にも興味を示したようでチラチラと自分の事を見てきながら、姫奈に質問する。
「え、あ、その……彼はですね」
一方の姫奈は、女神様モードに早変わりし、その質問に中々答えられずに苦戦していて、その顔は先ほどまでとは違い、外側に透明な仮面を被ったようで、心の底から浮かべる表情てはなく今の彼女の表情は女神様としての顔を自分で作っているというのが分かる。
その顔は普段から彼女のことを見ている自分には違和感でしかない。
そして、今の目の前にいる三人組の発言。美容室の店員に勘違いされた時と違い、今は手を繋いでいるため見た目からみれば恋人と見られてもしょうがない。
手を繋いでいるからこそ、友達とか親戚とか曖昧な関係を言うと信じてもらえないかもしれないし、かといって彼氏と言えば噓になるし、人気者の彼女にとってはあまり言いたくない選択肢だろう。
ここは自分からはっきりと言わなければならない場面だ。
「どうも、初めまして。彼女とは親しい友達ですよ」
とりあえずは親しいを付けて信憑性を上げて、何とか誤魔化すことにした。
姫奈は目の前の彼女たちを見ながら、顔を赤く染めて、繋いでいる手を一層強く握りしめてくる。
その言葉を聞いた前の三人組は口をぽかーんと開け「この人、しゃべった」と言わんばかりの顔をしてから、自分のことを見つめて少し黙り込む。
(そんな表情を浮かべられると困るな……)
学校での姿とは違い今は変装をしていないため、佐藤湊斗だとはバレていないだろうが、見つめられると緊張が走る。
それから、目の前の三人組は口を開いた。
「あ、あぁ、そうなんですね」
「な、なんだ、てっきり彼氏かと」
「あはははは」
さっきまではハイテンションだった三人組は突然、控えめになって少し畏まったように話し出す。
「あ、そうえば私たち、急いでるんだったよね」
「あ、そうだった。それじゃまたね姫奈さん」
「バイバイ」
「あ、さようなら……」
そして、なぜか三人組は慌てたようにして、それから姫奈に別れの言葉を告げてどこかへ行ってしまった。
(何だったんだ?)
よくも分からない展開になって、頭がこんがらがっているが、とりあえずはうまく抜け出せたようで安堵する。
そのまま姫奈とまた歩き出すことにした。
「湊斗くん。ありがとう」
「あ、あぁ。姫奈こそ大変だったよな」
一瞬、女神様モードになっていた姫奈は、また元の状態にすぐに戻って横を歩く。
「俺が話し出した途端に、あの子たち急に雰囲気が変わったけど、あれは何だったんだろう」
「多分、湊斗くんの背が高かったのと、今日は服装は大人な雰囲気だから、大人っぽく見えたんじゃないかな」
「なるほど」
心の中で確かにそう思ったのかなと思い、自分の身長と姫奈のコーディネートに感謝する。あの状況をうまく抜け出すのは本当なら難しいだろう。
「あの子たち、表面上では納得してたけど、絶対に裏では湊斗くんのこと彼氏だって思ってるよ。今度、学校に行ったら絶対に質問攻めされる……」
「確かに……今回はどうしようもないしな。あまり無理するなよ。学校でのことはあまり頼りにならないかもだけど、蜜柑だっているし周りに助けを求めればいいよ」
「そうだね。ありがとう」
そう彼女は納得したが、自分的には周りの女子に質問攻めさせる彼女を想像すると不安でしょうがない。
普段からそういうことには姫奈も慣れているんだろうけど、それでも苦手意識はあるだろう。
外でのことだったら今みたいに自分からどうにかすることは出来るが、学校では難しいことだからな……
もう、制約も無視して彼女と話したい所だが、後もう少しの辛抱だ。
☆☆☆☆☆☆
あれから思っていた通り、景色のいいところ、具体的には海に行ったりして一緒に写真を撮ったり、歩いていると小腹が空いてきて、また甘いものを食べたりした。
気がつけば、もう随分と辺りは暗くなっていて行きに来た道を帰ることにしていた。
今は電車に乗っているが、彼女は疲れたようで、片道数分の道のりの電車で眠ってしまっていて、横に倒れて自分の肩にもたれかかりながら眠っている。
彼女の寝顔を他の人に見られているのが嫌だなと変なことを思いながらも、すぐに最寄りの駅まで到着して、彼女を起こして電車を降りた。
そのまま、また手を繋いで家まで帰って、姫奈とのお出かけは終わった。
一日中、一人の人と遊ぶのは昔からあまり友達がいなかった自分にとっては初めての経験で、とても楽しかったし、自分と見つめ合いながら一緒にいてくれる人が今いてくれて心がじんわりと温かくなっている。
友達がいなかった分、他の人が楽しく友達と遊びに行く約束や遊んだことの話をしているのを聞いていて羨ましく思っていたが、半分諦めていた。
たまに誘われて、遊びに行くこともあったが、ほとんどは大人数で仲いい人同士が話していて誰も自分の相手にはなってくれなかった。
でも、今、こうして姫奈が自分のことを見てくれいて、自分と沢山話してくれて、自分と沢山関わろうとしてくれていて、自分と沢山関わってくれていることが本当に嬉しい。
それだけで幸せだ。
彼女がいいのならまた一緒にどこかへ行きたいと思う。
この話でまた休載します。次の更新で最後までいく予定で、更新は早くて来週、遅くても再来週になりそうです。ここまで読んでくださっている方、心よりありがとうございます。いつも嬉しくて、裏でめっちゃ喜んでいます(*'▽')