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57 落ち着かない雰囲気の中で……

 美容室を出て姫奈の隣を歩きながら、次の目的地のショッピングモールを目指す。


 美容室で髪を切っていた間にちょうど昼頃となっていて、昼ご飯を食べるにはいい時間帯になっていた。

初めて行く所でどれぐらい混雑しているか分からない為、確実に座ることが出来るよう予め予約をしてある。


 ちょうどお腹も空いてきていて、これからの姫奈との食事に胸を高鳴らせている。


 隣にいる姫奈もお腹を空かせているだろうと思うが、さっきから姫奈の顔が少し赤くなっていて、チラチラと自分の顔を見てきている。


「さっきからどうしたんだ?何か俺の顔についてる?」


 思い切って聞いてみると、彼女は体を少しビクンと震わせて反応する。


「な、何もないよ……」

「そ、そうか……」


 そう言った姫奈は視線を逸らして違う方向を向いてしまい、その反応がよく分からなくてどうしたものかと思ったものの、その後、彼女は握っている手を少し強めてきた。


(……)


 そのまま、目的地まで歩いた。


☆☆☆☆☆☆


(おぉ……)


 目的地のスイーツ食べ放題の店に着いて中に入ってみると、想像はしていたものの、店の中の雰囲気に圧倒されてしまう。


「……」


 隣の姫奈も黙り込んで周りを見ながら、やや恥ずかし気にチラチラと自分のことを見てくる。その姫奈の様子に自分は何も言うことが出来ない。


 店内は混んでおり、客層がカップルやら女性グループやらで、たいして付き合っていない自分たちにとっては身構えてしまうような空気が漂っている。


「お客様、何名様ですか?」

「あ、予約していた西園寺です」

「西園寺様ですね。かしこまりました」


 お迎えにやってきた店員が笑顔で人数を聞いてくるのに手を繋ぎながら答えると、店員は一度自分の目から視線を外し、姫奈と手を繋いでいる方を見てからにっこりとして、それからレジの方へ予約を確認しに行った。


(絶対勘違いされているよな……)


 考えずとも、心の奥底から湧いてくる感情に耳が熱くなってくる。


 それから、店の中を案内されて指定された席に座ることになった。店員は一押しのメニューや期間限定メニューを説明してから自分たちの席を離れた。


 目の前に座った姫奈も少し緊張気味でバックを横に置いて、頬を赤く染めながら自分の事を見てくる。


(姫奈も少しは感じているよな……)


 ここまでくると、二人とも周りの空気に飲み込まれそうで心の底から楽しめないようなそんな感じがしてきて、姫奈に声を掛ける。


「姫奈」

「ど、どうしたの?」

「とりあえずさ、周りの空気に飲み込まれずに俺らは俺らなりのペースで行こう。多分、勘違いされてると思うけどさ、そんなの気にせずに楽しもう」

「わ、わかった」


 少し慌てながら答えた姫奈は、頷いてから、顔の緊張が少しほぐれたかのように口元が緩んだ。


 その姿を見て少し安心し、自分も姫奈に笑顔を見せ、それから机の上に広げられたメニュー表を見てどれにするか選ぶことにする。


「結構、色んなものがあるんだな」

「……」


 事前の下調べ通り、三つのコースで食べ放題メニューが分かれている。値段が上がっていくほどに、メニューが増えたり、制限時間が増えていく仕様になっていて、自分たちで物を取りに行くセルフサービス方式になっている。


 ネットで見たものの、実際に店のメニュー表で見てみると見やすさが違って、ネットで見た時よりも「こんなメニューがあったのか」と新しい発見がある。


 事前に姫奈とはこのコースにしようかっと大体目星を付けていて、その選択肢は多分変わりそうにないので、姫奈に聞いてみることにする。


「家で言ってたこの一番高いコースにするか?」


 値段は張るが、たまにはいいだろうっということになっていた。


 メニューを見ていた視線を外して顔を上げて姫奈を見ると、姫奈はメニューを見ていたような様子はなく、じーっと自分の顔を見ていた。


「ど、どうしたんだ?何かあったか?」


 彼女は目を少し泳がせながら自分のことを見て答える。


「……湊斗くんは私と恋人に見られるの、いや?」

「え?」


……ドックン


 その言葉を聞いて、なぜか心臓が一発大きく高鳴る。


(何だよ……その質問)


 よくも分からない自分の体の反応に頬が熱くなってくる。


 こう質問されたら、普通に姫奈に「嫌じゃない」と答えればいいだけなのだが、普段の姫奈と違う今の様子の姫奈で頬を赤くしながら聞かれると少し違った気持ちになる。


 ましてや、メニューも見ずにそんなことを気にしていたのかと思うと、余計に心臓が激しく鼓動してくる。


 それからまた、緊張で唇が震えてきたのを感じながら姫奈に返答した。


「嫌なわけないだろ。姫奈が嫌じゃないなら、俺は別に恋人に見られたっていいぞ」

「!?」


 その言葉を聞いて、先ほどと増して姫奈の顔が赤くなって、目を大きく開く。


(少し言い過ぎたな……)


 自分の言葉を言ってしまってから後悔を感じ、姫奈に申し訳なく思う。


 今の言葉は勘違いしているっていうか「嫌じゃない」だけでよかっただろう。


 でも、言ったことは本心から思っていることで別に嫌ではないし、むしろ姫奈がどう思うのかと思う所だ。


 それから姫奈は自分を向いてそっと答えた。


「嫌なわけないよ」


 その言葉を聞いてまた心臓が高鳴り、頬が熱くなってくる。


「そ、そうか。それはよかった」


 その言葉を聞いて少し安心すると共に先ほどと同じような緊張が湧いてきて、もうそろそろ緊張で倒れそうな勢いに自分がなってしまっている。


「べ、別に姫奈はいい人だしかわいいけど、かわいいだけで言っている訳じゃなくて、姫奈自身を見ていいって言っているだけだからな」

「う、うん。分かってるよ。湊斗くんはそんなことで人を判断するような人じゃないもん」

「……そうか」


 姫奈が感じていそうな語弊を取り払おうと姫奈に聞くと、予想しなかった言葉も添えられて返ってきてその言葉を嬉しく思う。


「ま、まぁ周りの視線は気にせずに料理と俺だけを見てればいいよ」

「分かった。湊斗くんだけ見てる」

「え?」

「……ん?俺だけを見てればって……」

「え、そんなこと言った?」

「言ったよ」


 つい緊張で頭が回っておらず、思いがけない言葉を言ってしまい自爆してしまう。


(やべーめちゃくちゃ恥ずかしい……)


 姫奈はポカーンとして自分を見ている。


「え、あ、まぁ姫奈がそれでいいならそれでいい」

「うん」


 それから、姫奈はコクリと頷いた。


 頬が熱くてたまらないので話題を変える。


「と、とりあえず、このコースでいいな?注文するぞ?」

「う、うん、いいよ」


 慌てて姫奈に同意を得て、店員を呼んで注文と取った後、二人で食べ物を取りに行くことにした。

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