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56 湊斗くん大変身作戦② 

「ここに入るのか……?」

「うん。そうだよ」


 姫奈が選んだ美容室も先ほどと同じようなおしゃれな雰囲気の店で、自分にとっては行き慣れない店だった。

 見た目は白と黒を基調とした外観で、外から窓越しに見える店員の髪型が見るからにおしゃれな人だし、髪の色が金色や白色で自分の普段の髪型と全く違う。


(一体、どんな髪型にされるんだ……)


 姫奈のすることは心配していないが、少し不安が湧いてくる。


 住んでいる町から少し離れているとはいえ、素敵な美容室も知っている彼女は、そういうセンスか何かを持っているのだろう。


 いわゆる千円カットの店で切ってもらっていた自分に取っては、そういう店ではファミリー層を多く見かけるものだし、いつも行っている店との空気の違いに少し緊張してくる。


 接客の仕事をしているので髪型をだらしなくしているわけではないが、単にネットで調べたりして見本を見せているだけで、今流行してる髪型とかどういう風に言ったらいいのかとか、よく分かっていない。

 だが、そこは姫奈が言ってくれるそうなので、安心してそのまま姫奈と一緒に美容室に入ることにした。


「いらっしゃいませ~」


 中に入ると店員一同が挨拶をしてくれ、店内は満席で椅子に座って二人で順番を待つことになった。


 店員たちが手際よく、ササっと客の髪を切っていっている。


「俺は今からどんな風になるんだ?」


 小声で隣にいる姫奈に聞いてみると、彼女はにんまりと微笑んでから耳元で囁いてくる。


「それは、終わってからのお楽しみだよ」

「そ、そうか」


 彼女の息がやや感じられてこそばゆい感触を感じながら、そのまま辺りを観察する。


 客は全員、若者ばかりで店員と仲良く笑いながら話したりしている。


 その中で一人の客と店員のことが気になる。


「あの人、何をしているんだ?」


 何やら、美容師が手でクリームのようなものを延ばし、そのまま客の頭にまんべんなくつけていっている。自分は見たことがない光景で、気になって姫奈に聞いてみる。


「あぁ、あれはワックスをつけているんだよ」

「……ワックス?」


 聞いたことがあるような、ないような。


 クラスの奴らが言っていたような気がするが、そのワックスとやらが一体、何の役に立つのか分からない。

 そのまま見ていると、髪の毛が固まったようにまとまってきていて、髪型が固定されたようだ。


 その様子を見て有名人やら会社員がしているのを見たことがあるなと思う。あれはワックスを髪の毛に塗っていたからなのかとこの時初めて分かる。


「……髪の毛が固まったな。なんかのりみたいだ」


 そう言うと、姫奈が小さく笑い出す。


「何、その表現。でも間違ってはいないね」

「だろ?」

「うん。湊斗くんも今からワックスつけてもらうつもりだよ」

「……マジ?」

「マジ」


 少し驚いたように言うと、自分の目を上目遣いで見てきて、彼女は普段使わないような言葉を口にした。


「でも、ワックスを使い始めたら毎日しなくちゃいけないんじゃないのか?」

「大丈夫だよ。したい時にすればいいよ」

「そうなのか」


 その点は安心したと心の中で安堵し、何となく普段と違う髪型が期待できそうで、楽しみになってくる。


「でも、したい時にあれを自分で出来る自信はないぞ……」

「大丈夫だよ。私がやってあげるから」

「えぇ、頭を触られるのは恥ずかしいな」

「むっ。いつも湊斗くんは私の頭撫でてくるくせに」

「まぁ、確かに……」


 姫奈は少し口をとんがらがせる。


 その点は否めないが、自分がする分にはいいものの、今さらながら彼女に頭を触られると思うと恥ずかしさが湧き上がってくる。


 そのまま小声で会話を挟みながら待っていると自分の番が来た。そのまま指定された席に座る。


「今日はどんな髪型にされますか?」


 自分は先ほども言った通り、姫奈におまかせなので、後ろで姫奈が店員と話合っている。その会話が聞こえてくるが、何を言っているのかさっぱり分からないので、とりあえずそのまま店員にされるがままになる。


☆☆☆☆☆☆


 数十分後……


「……すげぇ」


 鏡に映し出された自分は、今まで見たことがない髪型に仕上がっていた。


「どうでしょうか?」

「いやー凄い今、感動してます」

「あはは。ありがとうございます」


 髪型を仕上げてくれた若い男性店員が、自分の反応を見て笑う。


 といっても、何という髪型なのかよく分からないが、前髪が中央で分かれていて、ワックスで髪が固められており綺麗に仕上がっている。髪の色はそのままだ。


「こんな感じで大丈夫でしょうか?」

「はい……!ありがとうございます」


 待合室で待っていた姫奈が、店員に呼ばれて自分の所まで駆け寄ってきて、自分の仕上がった髪型を見る。店員の問いかけに対し、少し声を上げて姫奈は返事をした。


「うわぁ……」

「気に入ってもらえているようで良かったです」


 姫奈は目を輝かせながら、自分のことを見ている。恥ずかしいが、姫奈が気に入ってくれているなら嬉しいことだ。


 少し自分に自信がついた。そんな気がする。


「ところで、お二人ってどんなご関係で?」


 席を立って、会計をしに行こうとした時、髪を切ってくれた若い店員が質問をしてくる。


「友人ですよ」

「え!なんだぁ、てっきりカップルかと思ってました」


(カップルって……)


 本当のことを伝えると、店員は笑って言う。


 確かに見えなくはないかもしれないし、そう思われそうだが、姫奈みたいな美人と付き合えているわけがないと自分は思う。


 それを聞いていた姫奈は少しの間自分の目を見て、それから少し顔を赤くして目を逸らした。


 若い店員は相変わらず笑いながら「会計しますかー」と言ってレジまで向かう。


 そのまま会計を済ませて店を出た。

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