52 姫奈からお誘い
「姫奈、弁当美味しかったよ。ありがとう」
家に帰って一通りのことを終え、自分はイスに腰かけてソファで猫の抱き枕とじゃれている姫奈に、心から思ったお世辞でも何でもない言葉をそのまま伝える。
すると姫奈はこっちを向いてきて、目尻を下げてニコッと微笑んでくる。
「よかった。また明日も作るね」
「明日も……いや、明日は自分が作るから」
「大丈夫だよ。明日も私が作る」
「でも、姫奈は久しぶりの学校で疲れているだろ。朝は弱いんだし、ゆっくり寝ていろよ」
そう言うと、姫奈は何だか怒ったように頬を膨らませる。
「そんなことないもん。朝弱いのは認めるけど、私がしたくてすることだから関係ないもん。明日はいつも通り起きる予定だし大丈夫だもん。湊斗くんの寝顔だって見ないもん」
「いや、最後の言葉聞き捨てならないな!?」
急に子供が駄々をこねるように話し始めたと思えば、急に自分にとって恥ずかしい事を自白し始めたので、そのまま姫奈を見つめてしまう。
(本当に寝顔を見るのはやめてほしいな……)
本当に恥ずかしいんだよ。
姫奈は少し自慢げになって、口角を上げて目を細めている。
「へへへー 湊斗くんの寝顔を見るのは私の特権だからね」
「……その特権を行使するのはやめてほしいな」
「えぇ~どうしようかな~ まぁ、とりあえず私が明日もお弁当を作るから」
「考えるまでもなくやめてくださいな姫奈さん。はぁ~とりあえず無理はするなよ……」
「大丈夫だってば~」
「……そうか」
少し不安は残るものの、これ以上言っても彼女は意思を曲げないような気がするので、とりあえずは経過観察ということで彼女を見守ることにした。
それから喉が渇いたので、水でも飲みに行こうかと立ち上がって冷蔵庫の方へ向かうと、突然後ろから姫奈に抱き着かれる。
(……)
何というか、もう不意打ちで抱き着かれるのは慣れてしまっていて、あまり驚かないがドキドキはする。
それから姫奈は自分の腹に腕を通して、背中に顔をスリスリとし始めた。
「私は毎日、湊斗くんとのギューで全部リセットされているから大丈夫~」
「姫奈はいつも急だな」
「抱き着きたいと思った時に抱き着いているだけだよ」
「……そうか」
姫奈は体の力が抜けているような声で、顔スリスリを続けている。
姫奈の言ったことは否定できないが、少しは危機感も持ったらいいんじゃないかと思う所だ。
まぁ、今となっては妹のようで、変な感情なんて湧いてこないし、むしろかわいいと思っているから大丈夫と言えば大丈夫なんだが……
自分も姫奈とのギューで癒されていて、毎日疲れが一気に吹き飛んでいるような感覚だが、逆に本来はサポート役としてなので、彼女がしてきていることにあまり依存しないよう注意はしている。
それから姫奈は顔スリスリをやめて背中に顔をうずめ始めた。
どうしたことだか、と思い動こうにもその場を動けないのでそのまま立っていると、姫奈は顔を横にして口を開いた。
「……湊斗くん、空いている日ある?」
「あぁ……そうだな」
空いている日、最近では姫奈の事もありちょくちょくと休みを貰っているため休みはあるが、今度はいつだっただろうか……
「……どうしたんだ?」
「湊斗くんをもっとかっこよくしに行くんだよ」
「かっこよく……?」
「うん」
その言葉を聞いて一瞬分からなくなる。
でも、少し考えた後、言っていることはなんとなくが分かる。
「俺の服、選んでくれるのか?」
「うん、前に言ってたでしょ?」
「そうだったな」
そうえばクリスマスの時に「今度かっこよくコーディネートしてあげる」と姫奈が言っていたのを思い出す。
その約束をちゃんと果たしてくれるのかと思って、嬉しい半分、自分の壊滅的なファッションセンスのせいで申し訳ないと思う。
「ありがとう。すぐには分からないから、今から確認してみるよ」
「分かった。あと、スイーツの食べ放題も一緒に行かない?」
「おぉいいな。それも行こう」
「行こう行こう」
スイーツの食べ放題、これも前に一緒に行くと約束した時があったなと思う。
甘いものをたくさん食べている姫奈を見れると思うと、自分も楽しみになってきてわくわくしてきた。
「楽しみ~」
そう言った姫奈はほんの少しギューを続けた後、自分から離れた。なぜだか、離れた姫奈の顔は少し赤くなっていた。
活動報告にも書かせて頂きましたが、この話をもちまして一旦、休載します。いつも読んで頂いている皆様には申し訳ありません。
また、一週間〜二週間ほどで再開致しますので気長にお待ちいただければ幸いです。