47 美女が二人……
久しぶりの登校というものの、クラスでは特別変わった雰囲気はなく、クラスメイト同士冬休みにあった出来事などを語り合っていて、会話を楽しんでいる。
校長のよくも分からない、長々とした雑談の話をぼーっとしながら聞いて始業式を終え、教室に戻ってから休み時間となり、いつも通り自分はクラスの隅っこで机の上に教材を並べ、次に出されそうな宿題の範囲を三学期初日からしている。
初日からバカ真面目なことをしているが、この時間が後々自分の中では惜しくなってくる。
今日から姫奈が学校に来ているが、変な事をして絡まれるのは嫌なので彼女には学校で何もしないし、逆に彼女には、学校で自分にあまり関わらないでくれと頼んである。
こういう事を言うのは嫌だったが、制約があるのでどうしようもない。
学校でも彼女と話せたら……
今までは学校での姫奈の存在に気づかなかったものの、今日はしょっぱなから彼女が学校の奴らに絡まれており、姫奈だなっと分かるくらいに感じ取ることが出来た。
始業式が行われた体育館までの道も、姫奈の周りには沢山の人が群がっていて人気者というものが一目で分かった。
周りの奴らも姫奈が久しぶりに来たことに喜んでいるんだろう。なんせ、突如消えた女神様が帰ってきたのだから。
姫奈は姫奈で周りに奴らに気を遣いながら今も接しているんだろうけど、大丈夫かなと思いながら過ごしている。
今日はどっぷりと疲れて、姫奈は帰ったらそのまま寝るかもしれない。
「よぉ、湊斗。お前初日から休み時間に勉強しているとかバカ真面目すぎるだろ」
ため息をついていると、クスクスと笑いながら駆け寄ってきた伊織はいつも通りだ。彼とは冬休み中に一度会っていたため、本年の挨拶も終わっておりこの顔を見るのは今年初じゃない。
相変わらず今年もこの調子で何だか安心するまである。
「まぁ、先にやっておいた方がいいだろ」
「それはそうだけど、面白いなぁ。ま、それは置いといて。やっぱり女神様のご帰還とはすごいものですなぁ」
「あぁ……そうだな」
姫奈のことはしょっぱなから聞かれるんだろうと身構えていたので、そんなに驚くこともなく、彼も久しぶりの姫奈の登校を気にしていたんだなと思う。
「周りに男女関係なく集まっていて、あんな人気者が湊斗と暮らしてるなんてありえないわ」
「そりゃそうだろな」
「しかも、朝霧さんの髪の毛短くなっていて、前よりも超かわいくなってたし、あの人を毎日お前が独り占めしてるとか羨ましい限りだぜ……」
「独り占めって……お前には妹がいるだろ」
「まぁそうだが。俺の妹が一番かわいいな」
「そうか。伊織は一途だな」
「だろ」
自慢げに妹のことを褒める伊織に対して、自分は少しそっけなく返事をするものの、さすがは伊織は一途だなと感心する。
確かに自分には凶器の目しか向けない周りの奴らが、姫奈には神様に群がる人間たちのように、顔色を変えて接する程の人気者の彼女と家では一対一で暮らしているんだから、普通に考えれば羨ましい事だろう。
でも、そんなことは気にしていないし、周りに群がっている奴らはどうだっていい。姫奈が人気者だろうが自分には関係ないし、自分は彼女自身にしか興味がないからだ。
っと
「あ、朝霧さんだ」
「蜜柑さんもいるぞ!」
「何だよ!?三学期初日から美女が二人覗いてんじゃねぇか!」
「かわいすぎるっ」
突然クラスの男子達がざわつき始める。
「お、今日もかわいいなぁ俺の妹」
伊織もドアの方を向いて反応する。
「お、え、マジかよ」
自分もドアの方を見ると、さっきまでどんよりとしていた自分の気分が一気に冷めて、目を見張ってしまう。
そこにいたのはドアからひょっこりと顔を出している姫奈と蜜柑だ。琥珀色の瞳と赤色の瞳が教室を覗いていて、それから自分たちを発見したのかこちらを見てくる。
(何でいるんだ……?)
何か自分に大事な用が出来たのだろうか。あまり学校では関わらないようにとは言ってあったしな……
「朝から俺らの愛人が教室まで見に来てくれるなんて、俺たちは幸せもんですなぁ」
「ちげぇよ。姫奈を勝手に愛人にするな」
危険な表現をする伊織を睨む。
さすがは皆から人気があるので、クラスの奴らはこぞってドアから覗いている二人を見ている。
美人が二人、蜜柑もそうだが二人とも上下に顔を並べていて、容姿以外にも何とも言えないかわいさがある。
これは二人をあまり知らない人でも、目に留まってしまうだろうといった光景だ。
それから姫奈は自分と目を合わせきて、皆が分からないように小さく微笑む。
(……心臓に悪いぞ)
不意打ちはずるい。
それから二人は、周りで見ていた奴らの一部に駆け寄られてそのまま囲まれてしまった。
「あぁ……」
「クソっ、邪魔すんじゃねぇよ」
伊織が惜しいように、周りを囲んでいる奴らを見て小さく言う。
自分も同じ気分で、囲まれていく姫奈を見ながら少し惜しいように息を小さくこぼした。
姫奈は何も用事はなかったようで、今さらながら自分を見に来たのかっと思うと少しドキドキしてくる。
ああいうことを学校でされると非常に困る。嫌ではないし悪くは思わないが、家で居るのとは違って、学校でされると違う意味で自分の心臓がやられそうだ。
伊織は少し物足りなさそうに息を吐いてから、自分の目を見てくる。
「可愛い妹が他の奴らに囲まれて嫉妬でもしてるのか?」
「当たり前だろ。全くだ」
本当、伊織の蜜柑への思いは尊敬に値する程だ。
「というか、姫奈って蜜柑と仲いいのか?」
「あぁ、結構いいらしいぞ。自分と似てるから関わりやすいって蜜柑は笑って言ってたけど」
「そうなのか……」
確かに姫奈と蜜柑の学校の立ち位置は似ていて、どちらも美人だし周りからも人気がある為、同じ立ち位置同士お互いの気持ちが分かって気が合うかもしれない。
といっても驚いたのはそこではなく、蜜柑が姫奈と関りがあったことを今まで知らなくて、今初めて知ったので驚いていた。
「蜜柑は朝霧さんと繋がってるから、朝霧さんの秘密までどっぷり知ってるぞ」
「何だよその顔。俺は蜜柑に聞いたりなんかしないぞ」
「俺が聞いてやってもいいが」
「やめろ」
伊織がいつものようにニヤニヤしながら、余計な事を言い出すのでまた睨んでおく。すると伊織はへッと笑って「興味ある癖に」とほざいていた。
全く、そんなことまでしたら逆に気持ち悪いって思われる。今はそこまで彼女のことを詮索したいとは思わない。
そうして休み時間が終わり、最後のホームルームも終わって下校となった。




