39 段ボールの中身
段ボールを開けると中に入っていたのはソファだった。本体はバラされていて中に上手に入れられているみたいだ。
(何だか見通された気分だな)
祖父母にはソファが欲しいなんて一言も言っていないのに、前々から購入を検討していたソファが祖父母から送られてくるなんて思ってもみなかった。
祖父母が感がいいのかそれとも偶然なのか分からないが、とにかく笑えてきてしまった。
隣で姫奈は不思議そうに見ている。
「ソファ……」
「結構妙な物を送ってきたよな」
「うん。ソファを送ってくるなんてあまりない事だと思う」
「だよなぁ」
姫奈も意外だったようで、その言葉にまた笑えてきてしまう。
見るからに中々いい物のようで、送ってくれた祖父母には感謝の気持ちでいっぱいだ。祖父母には気を遣わせてばかりで、自分としてもまた何か今住んでいる地域の物を送ろうと思う。
組み立て式で時間がかかりそうなもので今は夜の九時、姫奈は先にお風呂に入ったようでパジャマだし、まだ夕食もとっていないので今日中に組み立てるのは難しいだろう。
一旦は開いたものの、しょうがないなぁと再度段ボールの蓋を閉めようとすると姫奈が自分の顔を見つめてくる。
「え、閉じちゃうの?」
「あぁ。組み立てるのには時間がかかりそうだし、また時間のある時でいいだろう」
「そうなんだ……」
そう言うと彼女は少し寂しそうに目を細める。どうやら結構期待していたようだ。
(そんな顔されたら組み立てざるを得ないだろ……)
何というか、泣かない子供が静かに何か訴えているような顔で、見ている自分の心が揺らいでくる。
自分としては今から組み立てるのは問題ないし多少遅くなっても大丈夫だが、姫奈はどうなんだろうか。
「……今から組み立てるか?」
「え、いいの?」
「俺はいいけど、姫奈はいいのか?」
「うん!」
姫奈は目を見開いてうなずいた後、瞳を輝かせて再度ソファの入った段ボールを見た。彼女の素直な表情や仕草が微笑ましくて、見ていると自然と口角が上がってくる。
自分としても今から組み立てようというやる気が心の底から湧いてきた。
☆☆☆☆☆☆
工具も一通り入っておりあまり複雑なものではなかったため、二人で組み立てて三十分ほどであっという間に組み立てられてしまった。
姫奈の頭が良く、結構説明書の呑み込みが早かったのも影響してるのかもしれない。
見た目はシンプルな白色の無地のソファで二人掛けとなっており、一応三人座れる程度にはでかい。横幅が寝られるくらいだ。
「ふぅ……組み立てられたね」
「そうだな。結構いい感じのソファだ」
「うん。おしゃれだよねぇ」
姫奈は何だか羨ましそうにソファを見ている。彼女の部屋も無地系の物が多く目立つ部屋なので、こういったものには興味があるのだろう。
「座ってみよっか」
「うん」
姫奈の体がうずうずとしているので早速座ってみることにする。
よいしょ
座ってみた感じ特に問題はなさそうだ。
ふかふかでしっかりとソファがおしりにフィットしてくれていて結構沈み込む。普段イスしか座ってなかった自分に取って「おぉ」っと声が出るほどに驚く物だ。
ソファに座るのは何年ぶりだろうか。
「うわぁ、いいねぇ」
「そうだな。凄い楽だ」
「そうだね~おしりが喜んでるよ~」
「なんだそれ」
姫奈はふわぁ~んと力が抜けていて、顔を緩めながら変な事を言うのでなんともいえない表現に笑えてくる。
今の姫奈はもうソファの虜になったみたいで「あはぁ~」と言いながらそのまま背もたれに背中を預けた。
その姿を見ているだけでこっちまで癒される。なんだか丸まって寝ている猫を見ている気分だ。
これがあれば姫奈も少しは家にいる時間が退屈しないだろうし、リビングでくつろげるだろうと思う。
めちゃくちゃ祖父母には「ナイス」と言いたい気分だ。
「はぁ、ダメになっちゃうよぉ」
「そんなにか?」
「うん、なんだか眠くなってきたよぉ」
そう言って、姫奈はぷはぁっと小さくあくびをする。そのあくびもかわいくて小動物のようだ。
眠くてあまり思考が働いてないのもあるかもしれないが、異性の前であくびが出来るほどに姫奈は自分の前で心を開いているようだ。
っと
……とすっ
(……)
さっきまで背もたれにもたれていた姫奈が目を外していた隙に自分の肩にもたれかかってきた。
「むにゃ~」と小さな声を出しながら、目を閉じて頬っぺたを自分の肩にスリスリとしてくる。それから姫奈は肩にもたれながら眠ってしまった。
(あぁ……)
前にも姫奈と同居を始めたばかりの頃、彼女は自分のベットに倒れこんでそのまま寝てしまっていたことがあった。
普段から見ていても分かるように、彼女は眠いと判断力が鈍くなってステンと寝てしまうタイプらしい。そこが怖いというか無防備すぎるというか、どっちにしろ自分には困ってしまう事だ。
(かわいい顔で寝よって)
姫奈の寝顔は満足感でいっぱいの子供のようでかわいい。寝顔を見るのは申し訳ないが彼女の方から寝たわけだし、見ないのは損というほどに微笑ましい寝顔だ。自然と口角が上がってくる。
まだご飯は食べてないしどうしようかと思うが、こんな寝顔を見せられたら今から起こそうなんて出来ない。
このままソファで寝かせるのも、せっかく近くに部屋があってベットがあるのにそのまま寝かせるのはもったいない。
運べないわけではないので手っ取り早く姫奈をベットに運んで寝かせるべきなんだと思うが、あまりむやみに異性の部屋には入りたくない。
かといって自分のベットに寝かせて自分がソファに寝ても、彼女に気を遣わせてしまうだろうし色々と迷いどころだ。
(んー)
考える。そんなことは知らまいと姫奈は気持ちよさそうに小さく呼吸をしながらスヤスヤと寝ている。
(ん……)
数分考えた。出した答えは彼女のベットで寝かせることだ。ぽんっとおいてスッと部屋から出れば問題はないだろうし、姫奈は物分かりがいいので自分のしたことは理解してくれるだろう。
そうして肩にもたれている姫奈の背中と膝に腕を通す。一瞬「むぅ」っと姫奈が動いて起きそうになったが、何事もなかったかのように姫奈はまた気持ちよさそうに寝た。
お姫様抱っこ。前にもこんな事を姫奈にしたことがあったっけ。
事件の時は瘦せ細っていて何も持ってないような感じだったけど、今は前よりも人間の重みがあってちゃんとした体に戻ったんだなぁと一人で感動する。
でも、今でも重いというわけではなく軽々と持ち上げられて、いつまでも抱っこしていられそうだ。
そのまま姫奈の部屋のドアを開けて中に入る。
中は引っ越しの時に見た時とほとんどが一緒で、ベットの上には前に上げた猫の抱き枕が置かれている。
あまりジロジロと見るのは良くないのでやや下を向きつつ、姫奈をベットの上に寝かせてやった。
(……)
姫奈は相変わらず子供のように寝ている。きれいな肌をしていて、ふわふわな頬を触りたくなってくる。
それから猫の抱き枕を横においてやって、布団をかぶせてやった。
それに姫奈は反応して猫の抱き枕に「んんぅ」と声を出しながら抱きつく。見ている方は自分が買ったものを幸せそうに抱きしめる彼女を見て、少し頬が熱くなってくるのを感じながらも彼女をそぉっと見つめていた。
それから少し頭を撫でると姫奈はまた反応して「んん」っと言い、甘えるかのように少しにんまりと口角を上げた。
(かわいいなぁ)
そう思いながら見つめていたい気持ちを抑え姫奈の部屋から出ることにし、そぉっとドアを閉めた。
今日は何だかいいものが見れたような気がして心が和む。
(ふぅ……)
それから、久しぶりに一人で夕食を取ることにした。
(もう明日で今年も終わりか……)
01話と03話に少し付け足しを行いました。詳細を活動報告に書きましたのでよろしくお願いします。