37 やっていることは恋人なのかもしれない。
あれからスポンジケーキに盛り付けをしてひとまずケーキは完成した。お互いにある程度は料理が出来るという事もあり綺麗に仕上がったと思う。
姫奈の好きな、果物を詰め込んだ三層のフルーツケーキだ。各層にフルーツが挟まっていて、周りを生クリームで囲み、上にもフルーツを沢山のせた、二人で食べるには豪華なものになった。
二人とも甘いものが好きなので、食べれなくても次の日に分けて食べればいいだろうということになり、他の人に分けるという意見がでなくて少し笑えた。
途中、何やら姫奈が自分の作っている所を写真で撮り始めてきて、恥ずかしかったが何も悪い事はしてないのでそのままにしておいた。
「凄く綺麗にできたね!」
「そうだな。お店開けそうだ」
「だね!開いちゃう?」
「それもいいかも」
そう上機嫌に答えた姫奈はポケットからスマホを取り出し、そのままパシャパシャと撮り始める。その姿を見て自分も記念に撮っておこうとスマホを持ってきて写真を撮った。
それから姫奈は「ホーム画面にしよ」と言ってスマホをポチポチと触って、廊下の方へ消えていった。
(……どこ行くんだ?)
☆☆☆☆☆☆
エプロンを脱いで席につこうとすると、姫奈が何やら服を持ってきて自分の前に出してきた。
「これ着てくれる?」
「あぁ……」
姫奈が持ってきたのはサンタの格好が出来るコスプレの服だった。姫奈はいつの間にかサンタの格好になっていて、何だかもう、感想が言えないほどにめちゃくちゃいい。存在自体がプレゼントのようだ。
「……嫌だ?」
「いや、着るよ」
そう言って、サンタの服を着てみる。
(……いやー何だかすっごい恥ずかしい)
普段ジャージと制服と隊服しか着ていない自分にとって不慣れ過ぎて、なんか変な気分だ。鏡はまだ見ていないが、見たくないほどに恥ずかしい。
「……お揃いだね。似合ってるよ」
「そ、そっか……その、姫奈もすごい似合ってる」
「……ありがとう」
今回は姫奈も少しは恥ずかしい事を自覚しているらしい。めちゃくちゃ顔が赤くなっていて、湯気が出てきそうなそんな勢いだ。
お互いに視線を合わせられなくて、そのまま立ち尽くしている。
「と、とりあえず一緒に写真でも撮るか」
「う、うん」
そう言って机の上に携帯を置いて、タイマーのモードにし、ケーキを前に置いて一緒に写真を撮ることにする。
「どんなポーズにする?」
「ふんじゃ、こうケーキ出来たみたいに手を出すとか」
「おっけい」
「ふんじゃ、撮るぞ」
「うん」
まだお互いに顔が赤いが、そんなことは気にせずにボタンを押して姫奈の横に行く。異性と写真を二人で撮るのは初めてだし、それだけで緊張する。
ここは出来るだけ笑顔でカメラの方を向いて……
(……)
パシャリ
(ふぅ……)
スマホを手に取り撮れた写真を姫奈と確認すると、二人の赤い顔と姫奈のいつも通りの綺麗で癒される笑顔、自分のぎこちない笑顔が写っていた。
「凄い良い写真……」
「……そ、そうだな。姫奈、すごいいい笑顔してる」
「そ、そうかな……」
「うん」
「あ、あとで送っておいてね?」
「分かった」
緊張もあるのか自分の笑顔についてはあんまり気にしてないようだった。
それからお互いに耐えれなくなって、サンタの服を脱いでケーキを食べることにした。
☆☆☆☆☆☆
席に着いた姫奈は、自分の隣に座っていた。
以前にも隣に座ってきたことがあったが、今回はなぜ隣に座ったのかは追及することはせずにそのまま食べることにする。
まださっきの熱が残っていて、体が熱い。
一人のものとしては大きめな、四等分にケーキを取り分けることにする。
ナイフを通して下に引いていくと、途中でつっかえることなく綺麗に切れて、それから切れたケーキを横にずらすと
「おぉ……」
っと隣から思わずでたような声が聞こえてきてくすっと笑えてきた。
「中まで綺麗だね……」
「そうだな。いい感じだ」
姫奈はケーキを見て「うわぁ……」と言いながら目を輝かせている。
切り分けたケーキの断面は、几帳面に並べた果物たちが綺麗に並んでいてどこも崩れておらず、とても美しい仕上がりだ。
「いただきます」
そう言ってケーキを口にする。
はむっ……
「……やべぇ、めちゃくちゃうまい」
口の中に入れると、砂糖加減のいい濃厚なホイップクリームが口の中で溢れて、それから果物たちの色々な味わいが口の中で広がる……お店のような味だ。
隣からも抜けた声が聞こえてくる。
「んんぅ、おいひい……」
姫奈を見てみると、手のひらを頬っぺたに添えて落ちないようにしていて幸せそうな顔をしている。
(いい顔するなぁ)
今日は目の前に座っていないので、隣を向かないと姫奈の顔が見れないのは残念だが、そのまま食べ進めながらちょくちょく彼女の顔を見ることにする。
……すると
「湊斗くん、頬っぺたに生クリーム付いてるよ」
「あ、マジか……」
どうやら、大きめにすくってしまっていて口元にホイップクリームがついていたみたいだ。それから目の前にあるティッシュを取ろうとすると横から手が出てくる。
(え、)
姫奈は自分の頬っぺたについていた生クリームを指で取ってそのまま食べた。それから、顔を赤くして頭を少し傾げながら彼女は微笑みかけてくる。
「赤ちゃんだね」
「い、いや違うわ」
(はぁ……)
もうここまでされると、何も言うことが出来ない。
最近、姫奈が自分で自爆していることを忘れているというか、そもそも彼女がちゃんとした判断でやっているのかどちらか分からない。
どっちにしろ自分の心臓には悪い事だが、彼女が自分でしているのだから否定するつもりはなかった。
☆☆☆☆☆☆
甘いものが好きな自分たちは、ケーキを余裕で食べ終わり、残った半分はまた明日食べることにした。
パーティーもひと段落付いたところで、伊織と蜜柑に協力してもらったプレゼント探しの成果を姫奈にあげようと思う。
選んだのはシンプルな白のマフラーだ。
マフラーは前々から検討していたが、彼女は結構おしゃれなのでもう何個も持っているんじゃないかと思って他の物にしようと思っていたのだが、蜜柑が「そんなことは関係ないよ。人から貰うものに価値があるんだから」と言ってくれて、今は寒い季節だし使えるだろうとなり購入を決めた。
デザインは、彼女はおしゃれで色んな服を着るためどの服にも似合いそうなのを選び、出来るだけ暖かそうな物を選んだ。
あまり高い物ではないが、色々と自分なりに考えて選んだので喜んでもらえると嬉しいが……
姫奈が居ない隙にリビングのたんすにツッコんでおいたラッピングの袋を取り出して姫奈の前に出す。
袋を見て姫奈は少し目を見開いてきょとんとした。
「これ、クリスマスプレゼント」
「え、あ、ありがとう。あ、開けてもいい?」
「いいぞ」
袋を受け取った姫奈はリボンをほどいて中身を取り出す。
「マフラーなんだけど……」
「ま、まふら……!」
少し緊張気味ながらも期待しているようで、それから箱を開けて中に入っていたマフラーを取り出し、そのまま慣れた手つきで首に巻き付け始めた。
それから両手をマフラーに添えて、頬を少し赤くしながらにっこりと微笑んだ。
「……あったかい」
「そっか。よかった」
(あぁ……)
癒される。浄化される。
今は彼女は部屋着を着ていてマフラーとは相性が悪いが、それでも似合っているような気がして、彼女がちゃんとした服を着てからつけたらどうなるんだろうなと思うと楽しみだ。
自分が買ったものを目の前でさっそく身に着けてくれていてとても嬉しい。
「嬉しい。湊斗くんありがとう」
「どういたしまして」
「ちゃんと使うね」
「そっか。嬉しい」
姫奈はマフラーをつけたまま自分の目を見てニコッっと微笑みかけて来た。自分は少し照れ臭くて、頭をかく。
喜んでくれているようで使ってくれるとまで言ってくれたので嬉しい限りで、口の周りの緊張が解ける。
それから胸のあたりが温かくなってきて、とても和やかな気分になった。
「私も湊斗くんにクリスマスプレゼントあるから、ちょっと待ってて」
「あ、ありがとう……」
そう言って姫奈は自分の部屋に行く。それからリボンで包まれた小さい箱を持って戻ってきて、その箱を自分の前に両手を添えて差し出してきた。
「はい。これ」
「あ、ありがとう」
異性からプレゼントを貰うのは初めてで何だか緊張してしまう。
「開けてもいいか?」
「うん」
そう言って許可を貰い箱を開ける。中から出てきたのは、猫の顔のシルエットがついた銀色のブレスレットだった。
(おぉ……猫だ)
それから箱からブレスレットを取り出して掌の上に置いてみる。
「……かわいいな」
「でしょ?湊斗くんは猫が好きだから喜んでくれるかなって思って。つけるの恥ずかしい?」
「いいや」
そう言って手にはめてみる。
「どう?」
「……こういうのつけるの初めてだからなんか感動してる。めちゃくちゃかわいいしこれ見るたびに元気出そうだよ」
「ほんと?よかったぁ」
「大切にするよ」
「ありがとう」
そう言った姫奈はにこっと笑ってから胸を撫でおろし、ホッと息を吐いた。
ファッションセンスがない自分は、ブレスレットをつけたことがなくて少し慣れないので恥ずかしいが、姫奈から貰ったと思うと嬉しいし、見ていて癒されるので普段からつけていこうと思う。
「湊斗くん失礼だけどファッションに欠けている所があるから、今度私がかっこよくコーディネートしてあげるね?」
「それは否めないな。よろしく」
そう言って二人で少し笑ってからお開きとなり、姫奈とのクリスマスは終了となった。
本当に楽しかったから、余韻に浸っていて夜はあまり眠れなかった。人生の中で記憶に残る一日になったと思う。
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