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02 少女のお見舞い。

ここからは湊斗の一人称で進んでいきます。

 あの事件から一週間がたった。少女は病院で入院することとなっていて治療を受けている。


 今日は隊長から「少女のお見舞いに行ってきてくれ」と言われたため、少女が入院している病院に来ていた。


 これまで依頼を受けた被害者のお見舞いに何度か来たことがあるため、お見舞いに行くこと自体は珍しいものではないが、同じ学校の生徒であるかもしれないということもあり何だかいつもと違う気分だ。


 もし仮に、相手が自分のことを見たことがあったとしても、学校の服装ではないので気づかれないだろうし、今日は治安維持隊の隊員として少女と接するつもりだ。


 コンコン


 少女のいる病室の扉を軽くノックする。

 共同の部屋ではなく個室の部屋だったので入るにはノックが必要だった。


「はい。どちら様でしょう」


 扉越しに声音の高い少女らしき声が聞こえる。どうやら話せるようになるまでは回復しているようだ。


「こんにちは。治安維持隊の者ですがお見舞いにやってまいりました」

「分かりました。どうぞ中に入ってください」


 扉越しに挨拶をすると中にいる少女が了承して、そのまま病室の中に入ると五畳ほどの大きさの室内が広がっている。


 それから視界に飛び込んでくるのはベットの上で頭を上げて座っている少女。


 窓からさしている光が少女の体を照らしていて黒色のロングヘアが太陽に反射してキラキラと輝いている。

 先週とはまるで別人のような容姿に変わっており、琥珀(こはく)色の瞳は大きく透き通っていて、子猫のような鼻、綺麗なピンク色で潤っている唇、肌荒れを知らないような白い肌の綺麗な少女が目の前に現れている。

 人形のような愛くるしい表情で、病室に入室してきた自分のことを見ている。


 顔や体に所々、ガーゼや包帯が施されているがその美貌はそんなものでは隠せないものだ。

 

 頬を薄紅色にほんのりと染めながら、口角を上げて微笑している。


(おぉ、、、)


 (まれ)に見る美少女というもので、誰でも少しばかりは見とれてしまうだろう美しい容姿だ。


「改めましてこんにちは。そして初めまして、治安維持隊に所属しております四番隊の西園寺湊斗と申します」

「こんにちは。初めまして、朝霧(あさぎり)姫奈(ひめな)と申します」

「いいお名前ですね。こちらにかけてもよろしいですか?」

「ありがとうございます。どうぞ。」

「失礼します」


 着席の許可を貰いベットの横にある丸椅子に腰を掛ける。至近距離で聞く彼女の声は優しくて自然と包まれるような声だ。

 

姫奈(ひめな)さんと言ったな)

 

 同じ高校のようだが、自分には聞き覚えのない名前だ。


「体調はどうですか?」

「前よりかはずっといいですよ。何だか体が軽くなった気がします。悪いところは体が所々痛いところですかね」

「大変ですね。私たちに出来ることがあれば精一杯尽力いたしますので、何かあれば気軽に言ってくださいね」

「ありがとうございます」


 自分が出来る限りの優しい微笑みを彼女に見せながら、また彼女も敬意を表してくれて深くお辞儀をする。

 

 朝霧さんは(かしこ)まっていて、こちらに気を使ってくれていることはありがたいことなのだが自分的にはもっと彼女と打ち解けていきたい気持ちだ。


 今度は朝霧さんは少し頬を緩め、何だか申し訳なさそうに目を細める。


「あの、湊斗さんって私が家にいた時にいた人ですか?」

「そうですよ。私が一番最初に朝霧さんを発見しました」

「そうでしたか。お見苦しい光景を見せてしまい、ごめんなさい」

「いえいえ、そんなことをおっしゃらないでください。一番大変だったのは朝霧さん自身でしょう?そんな自分を卑下(ひげ)されるような言動はされないでください」

「ごめんなさい」

「謝ることではないですよ。顔をあげてください」


 朝霧さんは瞳の色を変え何かにおびえているように深く頭を下げた。突然の変わりように動揺してしまい慌てて彼女の言ったことを否定する。

 まだ彼女は精神的に不安定のようでそんな謝ることではないのは当たり前だが、急に謝ってしまうのは多分、虐待されている中で何をやっても謝らなければならない状況にあったのだと思う。


 少し重いどんよりとした空気を晴らすために「顔を上げてください」と言い、彼女に微笑えみかける。

 

「突然ですが、朝霧さんは何座ですか?」

「……え?」


 突然の奇想天外な質問に彼女はきょとんとした表情でこちらを見つめている。この空気の中、突然「星座は何?」と聞かれたら無理はないだろう。

 

「大丈夫ですよ。そんな深い意味はないので気軽に答えてもらえばいいです」

「あ、はい。私はうお座ですね……」

「おぉー誕生日はいつですか?」

「三月です」


 彼女は不思議そうに顔を少し傾けながら答える。まだ顔に怪しげな雰囲気が残っているが、ここからが本番だ。おかしな話をするかもしれないが、自分はただ彼女に笑ってほしいという思いで聞いただけだ。


「おぉ!やはりそうでしたか。実は私、顔で大体の人の誕生日月を当てることが出来ましてね。朝霧さんは三月ぐらいだと思いまして」

「へぇ、そんな得意技があるんですか?」

「えぇ、まぁおかしいと思いますが、結構当たるものでしてね」

「そうなんですか?」

「そうなんですよぉ」


 そう、昔からなんとなく人の誕生日を聞いた時に誕生日月が同じ人はなんとなくそれぞれの顔に特徴があると思っていた。

 それからその人たちの独特の雰囲気を覚えて、誕生日月を見出せるようになっていた。だからその特技をここで応用しようと思い謎の質問をしたのだ。


「それでですね。今日の運勢を見てきたわけですよ」

「え、そこまで準備されてきたのですか?」

「そうです」

 

 自分の顔がニヤニヤしているのに朝霧さんは少々感付きながらも、自分の会話にちゃんとついてきてくれている。

 そこがとても嬉しい。


「それでですね。絆を感じて勇気がわく日だそうですよ!」

「おぉ!それじゃあ湊斗さんとは何かご縁がありそうですね」

「そうだと嬉しいですね」


 口元にニヤつきを交えながら微笑すれば、彼女もどことなくおかしくなってきたのか口元を緩めてうふふと笑う。

 朝霧さんの笑顔は無邪気な子供のようで心を動かされるような笑顔だ。彼女が笑ってくれて、こちらも少し安心する。


(いい笑顔するじゃないか)


 やはりどんな人でも笑っているのが一番いい。彼女の笑顔も素敵だ。


「いい笑顔しますね。そうやって笑っている方がいいです」

「そうですか?」

「はい。見ていてこちらまで気分が良くなってきて幸せになってきます」

「そんな大げさな……でも、そう思えるなら良かったです。湊斗さんが思いがけないことを話始めるのでなんのことだと思いましたよ」

「だははっ。笑ってくれたのならこちらとしてはミッション成功です」

「そうなのですか?」

「そうです」


 朝霧さんには少し理解できないようだったが、自分としては万々歳だったので良かったことだ。まぁ今更考えてみれば少し変な話題を話したと思うけど。


 こうして、彼女と話していく内に自然と溶け合っていった。


「すみません。これから少し仕事がありますのでもう帰りますね」

「分かりました。今日は楽しかったです」

「いえいえ、こちらこそ楽しかったですし、ちゃんと話を聞いてくれてとても嬉しかったです」

「それはよかったです。私でよければいつでも話を聞きますよ?」

「……そうですか?それじゃまた面白い話考えてきます」

「はい。楽しみにしてます」

 

 にっこりと笑って優しく微笑んでくれてくれた彼女に、自分も嬉しい気持ちでいっぱいだった。


 普段面白い話なんてスベッて笑われるのでしないようにしていて、自分の話をまた聞いてくれると彼女は言ってくれて少し驚いたものの自分の話を理解してくれる人がいて心がジーンと熱くなった。


「今度、またお見舞いに来る時に何か持ってこようと思っているのですが、何か欲しいものはありますか?」

「いえ、そんな気を使わせてるなんて申し訳ないです」

「いやいや、頼ってもらえばいいです。まぁ僕、こう見えて結構果物とか見る目あるんですよ?」

「そうなんですか?」

「はい。何か好きな果物あります?」

「あ、あぁ……えぇっと……桃、ですかね」

「桃ですか!分かりました!桃持ってきます!」

「ありがとうございます」


 今は彼女に頼ってもらいたい。人の役に立つのは嫌いじゃないし喜ばれるのが好きだ。


「またのお見舞いを楽しみにしています。それでは」

「私も楽しみにしています。さようなら」


 そう言って、彼女の病室から出た。

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