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36 姫奈とクリスマス

 終了式が終わり、何事もなく冬休みに突入。そしてクリスマス当日となった。


 こういうのを認めるのは恥ずかしいけど、自分なりに楽しみで昨日の夜はあまり眠れなかった。自分も彼女の笑顔が見られるのを楽しみにしていたからだ。


 謎に夜中、姫奈の部屋から物音がしていたのは今は深くは考えないことにする。


 だから本当は寝不足のはずなんだが、今はそれを感じないほどのドキドキと幸せが自分の中で繰り返している。

 だって、この二年ほどは友達と遊んだことなんてことは滅多になかったし、というか休みがなくて毎日キリキリの生活を送っていたから遊ぶことなんて考えてなかったけど、それを感じさせないほどに今は彼女と一緒にいたいと思えていて何だか不思議だからだ。


 自分は色んな事情を抱えている人と広範囲で浅く関わることの多い人だから、一対一で自分と過ごそうと思ってくれている人がいて幸せで、でも相手が相手でドキドキするんだが……


 今日は久しぶりの一日休みで、昼間はクリスマスパーティーの為の買い出しをしに行っていた。町もクリスマスムードという事もあり、昼間からカップルや家族づれがあちらこちらに大量発生していた。


 ただの親しい同居人で、カップルでも家族でもない自分たち二人は、周りから見たら肩身が狭い物だったかも知れないが、自分たちなりにどうするか考えながらショッピングを楽しんだと思う。

 まぁ結局は二人でおでかけもしたってことだ。


 でも、逆に言えばカップルでも家族でもない曖昧な関係で、異性と二人でクリスマスのショッピングを楽しんだというのはご想像にお任せで、結構心臓をやられる部分が多かった。

 時々、ドキドキしすぎて頭が回らなく、何を言っていいか分からなくて変なことを言ってしまっていたような気がしていたが、姫奈がそれでもニコニコとしてくれて買い物を続けるから自分でもよく分からなくなっていた。


 姫奈の方は黒いベレー帽に、赤のニット、その中に白いシャツを着ていて、下は黒いロングスカート、黒のブーツを履いていた。クリスマスを意識していていつも以上に気合の入っているファッションで、彼女の周りが輝いていてこんな子を連れまわしていいのかと思ったぐらいだ。

 結構積極的で、色んなアイデアを出してくれてその度に笑顔で微笑みかけてくるから、本当に楽しそうで自分も一緒にいて楽しかった。

 クリスマスを過ごすのは本当に自分でいいのかともと思ったけど、今の自分と打ち解けた彼女を見ていると自分しかいないんじゃないかと謎の自信が湧いてきたまである。

 自分も一緒に過ごしたいわけだけど、姫奈なりに自分は他の人よりも気を遣わずに過ごしやすい方なんだろうなと思っただけだ。


 本当に前よりも関わりやすくなったというか、前よりも女の子らしくて、タメ口もそうだが仕草も前以上にかわいい。

 これが自分にしか見せてないと思うとヤキモキしてきて、本来の彼女のサポート役という目的を忘れそうなぐらいに今は変な気分だ。


 女神様として完璧な人間だと思っていて自分とは程遠い人物だと思っていたけど、今じゃいい意味で近い人間で、女神様よりかは遥かにいいと思っている。

 ほんと、前よりも接しやすくなった。


☆☆☆☆☆☆


 そんなこんなで、今から二人でケーキを作ることになっている。

 

「湊斗くん、エプロン付けてるか分からないね」

「あぁ……」


 開始早々、姫奈に笑われてしまう。

 

 というのも、自分も彼女に見習ってエプロンを付けることにしたんだが、暗め系の色が好きなので黒のエプロンを買ったら、自分、まともに着れる服が暗めのジャージしか持ってないことに後々気づいて、一番明るかった藍色のジャージとセットで付けたら、色が被ってエプロンを付けてるのかよく分からなくなっていた。

 

 本当に抜けていて、自分がいつの間にか仕掛けていた罠に自分が掛かったような気分であきれていた。でも、個人的にジャージは最強の服だと思うんだけど。


「もう、しょうがないな……」

「あはは。でも面白くていいよ」

「そんなに笑われると困るなぁ」

「だって面白いんだもん」


 それから、彼女は笑えてくるのを必死にこらえながらも、冷蔵庫から冷やしておいた液体のホイップが入ったボールを取り出して氷水の上に置く。


 ホイップクリームは最初から絞り袋にホイップが入っていてそのまま使えるような物にしようとしたが、せっかくだから自分たちで作ろうとなって液体の物を購入して予め冷蔵庫で冷やしておいたものだ。


「本当にこの液体がホイップクリームになるんだろうか……」

「湊斗くんと私の腕次第だね。私も頑張るから湊斗くんも頑張ってね」

「おう」


 というのも、電動の泡だて器は家にないので手動で生クリームをかき混ぜる必要があった。

 

 姫奈はやる気満々で腕まくりし、液体のホイップを泡だて器でかき混ぜ始める。


 カタカタカタカタカタ


 最初は素早く液体を泡立てていて、とても慣れた手つきのようで見とれていた。


(すごいなぁ)


 カタカタカタカタカタ


「湊斗くん、変わって」

「ほい」


 自分が「変わるぞ」と言う前に、姫奈は泡だて器を自分の元へ手渡してきた。彼女が無理なく自分を頼ろうとしてくれていると思って少し安心する。


 カタカタカタカタカタ


「おぉぉ、湊斗くんいいね」


 カタカタカタカタカタ


「ファイト!湊斗くん!」


 カタカタカタカタカタ

 

(いや、緊張するな)


 姫奈が横で応援してくれるので、泡立てるのに身が入る反面、一人の女の子に直接応援されることなんてなかったので、緊張で手が震えてくる。


 カタカタカタカタカタ


 とりあえずはコシが出るようになるまでは泡立てることにした。


☆☆☆☆☆☆


 交代ごうたいで泡立てていき、時間は掛かったもののホイップクリームはちゃんと出来た。


「ふぅ、とりあえずは泡だったね」

「そうだな。ちゃんとホイップクリームになってよかった」

「うん。湊斗くんのおかげだよ」

「いや、姫奈のおかげでもあるから」


 それから姫奈は味見をしようと引き出しからスプーンを取り出してきて、一口すくったと思えば自分の目の前へ差し出してきた。


「あーんして?」

「え、姫奈が味見すればいいじゃないか」

「最初は湊斗くんから」

「え、えぇ」


 彼女は目を細めながら小悪魔みたいに見つめてきたので、そのまま耐えることができずに流されてしまう。

 自分も少々頬が熱くなってきたのを感じながら口を開けてクリームを食べる。


「ま、まぁ、良い感じに甘くなってると思うぞ」

「そっか。それならいいね」

「うん。ふんじゃ次は姫奈が」

「え、えぇ」


 それから、姫奈が持っていたスプーンを奪ってホイップクリームを少し多めに取ってから姫奈の前に差し出す。


「あーんしろ」

「い、いや自分で出来るし……」

「お返しだ。甘いの好きだろ?」

「そ、そうだけど」


 そうして、姫奈は口を開けてパクリっと生クリームを食べる。彼女の顔は赤く染まってきている。

 

「ほんとだ。いい砂糖の加減だと思う」

「だろ?」

「うん。でもずるい」

「え、なんでだよ」

「私もあーんしたけど、これ、湊斗くんが食べた後のスプーンだよ?」

「あ、あぁ……」


(確かに……)


 勢いでやってしまったが、一歩間違えれば嫌われるようなことをしてしまった。いわゆる間接キスってやつだし、全部口の中に入れて食べたので完全にやらかしてしまっている。


 姫奈は頬を赤く染めながら、そのまま自分の事を見つめてくる。

 

 それから自分はその場で頭を深々と下げて……

 

「いや、マジでごめん。本当に気づかなくて勢いでやってしまった。ごめんなさい」

「全然大丈夫だけど、少しドキドキしたというか……とりあえず顔上げてよ」

「本当にごめんなさい……」


 ここまでしても許されることではないと思っているが、必死に姫奈にあやまった。彼女は「大丈夫」と言って自分を許してくれたが……


「湊斗くんのだったら、全然いいよ」


 っと本当に危険な発言を後でしていた。

10万字いきました!

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